La Campanella

ツンデレ VS 頑固 って手に負えないのに萌えました。
何気、喧嘩ネタって大好きなのです、って、知ってますよね。笑
あと、今更アルセーヌをフランソワに出来ない自分が居ます。なんか、してたまるか!みたいな感じです。
 
 
 大学生ぐらいのカップルネタ
 
 
 付き合い初めてから一年は、果たして彼女は怒ることがあるのだろうか、なんて事を考えてさえ居た。それからしばらくして、意外に頑固なのだと分かり、少々ビックリなんかして、それはそれでいいと思った。
 けれども今回ばかりは彼女の頑固さ並びに自身の素直になれない所が憎らしい。つまり、喧嘩をした訳で。
 今は理由さえ思い出せない様なほんの些細な事だったし、もう今は互いに怒ってなんか微塵も無かった。けれどもその時は勢いで「別れる!」と口走れば(この時すでに菊が止めるのを期待なんかしてたりして)、彼女も自身の部屋の合鍵を突っ返して「さようなら」なんて言って部屋を出ていってしまった。
 追い掛けようにもその時は頭に血が上りすぎていたけれど、本当に別れるには彼女が大切すぎた。それなのに見かければ目を逸らされ、隣に住んでいるのに声一つ掛け合わない今、さすがにアーサーは危機感を覚えざるをえない。
 もしかして彼女は本気だったのではないか?なんて。そんなことを考えてぐるぐるしているから、最近では私生活に障害が起こる始末。
 そんな日が何日も続いた時、隣の部屋(菊の部屋)から男の声が聞こえ、思わず壁に耳を張りつけてしまった。会話までは聞き取れ無いが、いやに親密だし楽しそうな笑い声が聞こえるし……
 しかも一晩、彼は泊まって朝早くに帰っていった。こうなるとアーサーは、初め苛立たしさを覚え、次にひどい後悔を覚えた。
 なぜ別れるなんて口走ったのか、もっと早くに話をしにいけば良かったのだ……なんて、そう考えてから、今度は菊に真意を聞きたくてたまらなくなり、遂に菊の部屋のチャイムを押す。
 待っている間、一体何度『やはり帰ろう』と思った事か……それなのに、結局アーサーは足の裏から根が張ったように動けなく、ただ彼女の姿を待った。
 やがて扉を開けた菊は、初っぱなから訝しそうな顔をして、アーサーを見上げる。その顔を見た瞬間、ちゃんと素直に言おうと思っていた事が全部飛び、どうしてか開口一番に「昨日泊まった男、誰だ?」なんて、出てしまう。
 菊は若干ムッとした様子で眉毛を歪めると、小さく唇を尖らせてフイッとアーサーから目線を外す。
「……あなたにはもう関係ありません。」
 その菊の言葉にアーサーも思わずムッとして一度言葉を失いかけるが、やはり昨日一泊して朝早くに帰って行った見知らぬ男が気になって、ならない。だからこそ粘り、今にも閉まりそうな玄関の扉に手を置いていた。
「それでも気になるだろ。隣りに住んでるんだ。」
 精一杯の言葉がソレなのだから、悲しい。菊はパッとアーサーの顔を見上げると、眉間に皺を寄せてなぜだか怒った風に顔を顰めてみせる。
「うるさくして無いと思いますが。」
 一体いつからこんなにも小憎たらしくなったのかと、アーサーは思わずまたもやムッとしながらも売り言葉に買い言葉を返しそうになり、懸命にどうにか抑え、言葉を探した。
「心配ぐらい、したっていいだろ。」
 それでもつっけんどんになる口調に、あの男の事を聞き出し、もしこちらの勘違いならばあわよくば仲直りをしてしまおうなんて考えていたのが、甘い考えだったと知る。お互い、折れそうにない。
「もう良い。そうだな、別れたんだからオレには関係無い話だったな。」
 アーサーは苛々としてそう言うと、そのまま自分の部屋に帰って部屋の隅とかで膝を抱えて自己嫌悪に陥りたくなってたまらなくなる。が、それよりも早くに菊が口を開いた。
「あなたが言ったんです。アーサーさんが、別れようって言ったんです。なのに、こんなのずるいです。」
 ふと言われた言葉に反論しようとして顔を持ち上げたアーサーは、途中で動きを止めて、言葉も止めて、俯いた彼女の顔を見つめる。黒く大きな瞳たっぷりに、涙が溜められていたから……
 何か一言言い置いて出て行こうと思っていたのに、思わず体の向きを彼女に直すと、その肩をグッと掴んで顔を寄せてその唇に己のソレを無理矢理に重ねた。瞬時、彼女の腕が伸びて拒否を示すが離さない。
「離して下さいっ!」
 顔を離しても抱きしめる力を緩めようとしないアーサーの胸の中で藻掻くその体を強く抱きしめて、耳元に唇を寄せた。
「ごめん……本気じゃなかったんだ。」
 アーサーのその一言に、それまで藻掻いていた彼女の動きがピタリと止まり、菊の細い肩が微かに震えていて、その微かな震えで彼女が泣いている事に気が付く。
 彼女の性格から泣き顔を見られることを嫌がるだろうから、そのまま菊の頭の上に顎を乗せ、背中を撫でてやりながら泣きやむのをジッと待った。やがて赤い目をした彼女が顔を持ち上げてアーサーを見やり、小さく鼻を鳴らす。
「……じゃあ別れないんですか?」
 ジッと、真っ黒な潤んだ瞳に久しぶりに見つめられて、意識がどこかトロンと蕩ける中、アーサーは苦笑をその顔に浮かべる。
「そうして貰えると、嬉しいんだが。」
 菊はアーサーの言葉を聞くと、大きな目を微かに細めて、微笑む。その小さな鼻の頭が、泣いたせいか赤く染まっていた。
「アレ、兄です。心配して泊まりに来てたんです。」
 照れて笑っって言った彼女のその言葉に、アーサーは今まであれ程悶々としていたのに……と、思わず嬉しさと悔しさで顔が引きつるのを感じる。否、嬉しさしか無いかも知れない。
「あの……私こそごめんなさい。」
 実の事を言うと菊も喧嘩の内容など覚えていなかったし、どうにかして話し合いをしたかったのだが、アーサーに言われた「別れる」という一言にムキになりすぎた。だって、酷く傷ついたのだもの。
 照れた様に笑った彼女の頬に指先を当ててそっと撫でると、つられて菊も微笑み、アーサーに部屋の中にはいるように促した。部屋の中はあまり変わっていなかったが、彼女の兄の土産らしい物が机の上に沢山並んでいる。
「兄さん、良いって言ったのに沢山お土産買って来ちゃって……」
 菊は慌ててそれら片付け始めるのだが、その後ろで菊の様子を眺めていたアーサーは、第六感というべきか、彼女の兄という存在を認識して微かに寒気を覚えた。それが一体なんの予感なのか分からないが、兎に角あまり素敵な予感では無い。
 まぁ、そんなの直ぐに分かる事になるわけだが。
 
 
 どうでも良い感じ
 
 目の前に座った、菊のお隣に居るアルセーヌに、アーサーは早く帰ってくれないかなーっと堂々と言葉に出しながらカップに紅茶を注いで差し出した。
 前々から友人(?)であったのだが、どちらかというと悪友であり、仲良しっ☆という訳では無い。というか、世間では仲が悪いと言うことで通っているのかも知れない。毎度喧嘩をしているのだから、当然だろうが。
「ずっと前から言おうと思っていたんだが、このマンションの壁って結構薄いの、知ってたか?」
 コトリ、とカップを机の上に置いた彼は、アルセーヌに似つかわしくない真剣な表情でそう言った。お隣の声が結構聞こえてくる事は知っていたけれど、今喜ばしきことに(本当にな)隣りは菊だから、それで苛々する事は無い。
「そうだな。だがそういう事は管理人に言ってくれないか。」
 茶菓子など勿論出さずに、それどころかアーサーは先程口を付けただけのアルセーヌのカップを既に片付け始めた。その手元を見つめながら、アルセーヌは一度コホンと咳をする。
「まぁ、仲直りしたのは良かった。うん。喧嘩の後は盛り上がる。それは分かる。」
 うん、うん、とアルセーヌは頷き何かに納得していた。彼等の喧嘩の所為で、自分にも随分被害が及んだのだから(アーサーから殴られたり、アーサーから怒鳴られたりetc)仲直りして喜ぶのは当然だろう。
 そうしてようやく、アーサーは彼が言いたいことを理解し、思わず手元の動きを止め、ついでに顔を青くする。
「つまりな、夜声が聞こえるんだ。」
「皆まで言うな!」
 アーサーは真っ赤にさせた顔を持ち上げると、慌ててアーサーはアルセーヌの言葉を止めた。何が悔しいって、アルセーヌに菊の甘い声を聞かれたことだろう。
「いいか!絶対それ菊には言うなよ!」
 咆えるように言われ、思わずアルセーヌは一歩後退しながら身構え「な、何で」と口ごもった。
「何でって、泣いちゃうだろ!」
 そんな事言ったら菊の事だから、これから二度とこのマンションではヤらせてもらいえなくなるのは考えなくたって分かる。つまり、二人とも泣くはめになるという事だ。
 あまりに鬼気迫った様子に、アルセーヌさえ口を呆けさせて、そっか、と、力なく頷く。