学パロ

 

メモ用に書いた筈なのにノリノリになった学園パロ(日本総受け)

 

※ 日本は女の子です。後年齢は実史をまったく考慮してません。

 

学パロ(特別編)
 
 
ご、ごめ、何か書きたくてたまらなくなって書いてしまいました。
オールギャグなのでロマンスの欠片もありませんごめんなさい。
瑞日の最終話は希日から入ろうと思います。
 
……途中から(最初からかもだが)トルコの口調を明らかに勘違いしている。最後の方は諦めてる。
ちょwwわかんねーよトルコ口調!……トルコロ調に見える……トルコ露?  (((゜Д゜;)))
トルコさんの口調を学ぶ為に本家様にめっさ出入りしていたら、何かトルコさんが最高に格好良く見えてきた……
否、元々めっさ格好いいんだよね、そーだよね!
 
後途中から未だに詳細が明らかになってない所為かトコトン書きづらいトルコさんより希日に偏りつつある……
土日書こうと思います。だからお願い魔王様!トルコの素顔とトルコの親日とトルコと日本のアレコレを……!
 
 
希日土  高校一年生
 
 
 それは高校15(中学三年生)の昼で夏、いつもの様に喧嘩に明け暮れていたある日の事だった。
 時間は確かに昼。土曜日という事で午前授業だったらしく(らしく、と書くのは自分は授業自体に出ていないからだ)、幸いというべきか、運命にも、というべきか、彼女はその時間にこの場所を歩いていたのだ。
 美しい黒髪だった。長い美しい黒髪を風に任せ、自分には不釣り合いに酷く清純で……天使というより自分には天女にしか見えない。彼女は土手を歩きながら小さな紙を一枚その手に持っていて、その紙を暫く悲しそうに見つめてから、ビリビリと細かく細かくちぎるとパッと手を広げ、その細かな紙片を風に任せて雪の様に散らせた。
 その光景は、やはり美しかった。美しくって、悲しくて、ひっそりと橋の下に隠していた身を乗り出して、思わず彼女の太陽に照らし出されたその顔を眺めてしまった。そしてゆるやかに、彼女は自分に気が付いた。
 驚いた様にその瞳を大きくさせ、スカートを翻し自分の元に駆け寄るその姿に、どういう訳か思わず逃げ出しそうになるが、喧嘩で体力を失った体はビクともせずにただ彼女の到着を待っていた。
 どうして、も、何があったのかも聞かず、彼女はポケットから取り出したハンカチを近くの水飲み場で濡らすとそっと自分の切れた口の端に当てる。つっと思わず仰け反ると、心配そうに彼女は自分の顔を覗き込んできた。甘い香りがする。
「大丈夫ですか……?」
 その時初めて彼女の声を聞いたのだが、もう、自分は生まれて初めての恋をしていた。なんだコレは。てっきり幼稚園の頃のみっちゃんが初恋だと思ってたのに、小学生の時の塾のボンッキュッボンな女教師も、結局アレは恋などでは無かったのだ……!と台風が到来した海岸絶壁で叫びたい気分満載だったが、腐っても不良、思わずこの少女を睨み付けてみる、のだが、睨み付けられた張本人は全く恐くないらしい。ただ不安そうに眉を曲げ、常備してるのか、鞄からバンドエイドを取り出している。
 『良妻賢母』そんな単語が人文字づつ巨大になって、BGM付きで、脳内に流れた。一枚一枚、計三枚のバンドエイドをその細い指で顔に貼っていってくれる。美しいとか、可愛いとか、そんなレベルじゃない。と、カタカタ震え顔を真っ赤にさせながら、気が付いたら何か正座してた。
「はい、終わりました。」
 ふんわり、と微笑んだ彼女。癖なのかちょっとばかり首を傾けたので、つられて自分までも少しだけ首を傾ける。
「動けますか?歩けますか?」
 不安そうにそう訪ねて、腕を伸ばされる、が、勿論その手を取る勇気は無かった。立てそうも無かったが、そこは根性がものを言うのか、いつまでも立てない自分など見せたくもなく、クラクラする頭を奮い立たせて同時に体も立ち上げた。そのあまりな勢いに彼女も驚いてコチラを見上げる。
「な、な、名前は!?」
 ビシィッと音が立ちそうな程の勢いで彼女を指さす。顔は真っ赤だろうし、じっとり冷や汗が顔から首の裏までびっしりと掻いているのが分かる。
「え?あ、あの、日本……です。」
 また前みたいに首を少しだけ傾けてそう名乗る。日本、日本、日本!ハッキリと脳みそにその名を刻みながら、ピクリとも動かずにずっと彼女を指さし続ける。
「お、俺はトルコってぇんだ。よく覚えておけ!」流石に失礼だと思い組み直した腕を、うっかりまたビシィッと日本に向かってさしていた。
 あっ、と真っ赤になってその行動を恥じつつ、脱兎として呆然とした彼女が座っているのと反対側に駆け出す。
 俺のバカ野郎!と孤独な笑みを夕陽に晒しつつ背中で泣きながら、まだパンチドランカー並にガクガク震える足で土手を一心に駆け出した。勿論心は今会ったばかりのエンジェル、日本の事で一杯一杯である。夕陽に向かって彼女の名を叫びたかった……
 
 
 どう考えても彼女、日本の着ていた制服は自分の学校と同じものだった……あまり授業に出て居ない所為か、日本の存在に今まで気付かなかったのはディステニーか天使の悪戯にあい違いあるめぇ。と一人納得しながら学校の門にトルコは入った。
 トルコの周りに居た人々は彼を一目見ると驚き慌てて思わず、という感じで飛び退く。勿論、彼が不良だからでは無く、彼が付けている“ソレ”に問題があった。
 “ソレ”とはつまり、仮面の事に相違い無く……まるでファントムの両目版という様な、白くて彼の顔の上半分をすっぽりとその仮面は覆っていた。
 まぁ取り敢えず引かないで聞いてくれ。何故彼がこの仮面をかける事になったかと言えば、第一に昔ノリで買ったいらない物NO,3に登録されていたこの仮面がたまたまソコにあったのと、喧嘩でたこ殴りにされた顔は、当然のごとく醜く腫れ上がる、という事だ。
 そしてここからが聞くも涙、語るも涙……もう見えなくなるぐらい腫れ上がった彼が、何で普段行かない学校にそうも顔を腫らしながらやってくるのかといえば、当然、初恋だ。
 今までしてきた恋も愛もSEXも全てが幻想だと気が付いた(笑)彼は、それこそ夜も寝ずに考えた。そして一つの結論に達したのだ……!教師陣からは素行こそ悪いが、頭は悪くないと太鼓判を押されてきたその太鼓判も、その日を限りにぶっ壊れるのだが。
 そういう訳でその日を限りに、彼は仮面を装着したのだ。怪我が治るまで家で待機、という考えすら日本に会うという事柄の前では酷く小さく、既に捨て去った。遠い闇の奥に。
 そして当然の様にみんなが一様にそんな彼、トルコから一歩逃げて彼を観察する事となる。みんな遂にトルコは殴られ過ぎて頭がおかしくなった、と噂をするのだが、正しくは恋は人を狂わせる、だ。今回はちょっと狂わせ過ぎただけに過ぎない。
 そうして一年生の教室に続く廊下を歩いていたその時、彼はお目当ての少女の後ろ姿を見つけた。あのサラサラヘアーのビューティー黒ヘアーと言えば、勿論彼女一人。
「日っ本さーーん!」
 バタバタと、大きく両腕を振ってもの凄い笑顔で(仮面によってよく見えないが)走り寄ってきた彼に、日本は当然ながらギョッとした。
 酷く明るいファントムっぽいのが笑顔で駆け寄ってくれば、それは誰だってギョッとする。クリスティーヌだってギョッとする。因みに日本と別れを告げたドイツとイタリアもギョッとした。この場にもし中国が居れば、問答無用でまだ何もしていないのに蹴りが飛んできただろう。
「えっ?えっと……どなた、ですか?」
 戸惑った様に日本は眉を曲げて行ったが、正論である。例え仮面をしてなくても、まさか昨日の不良が笑顔で両手を振り振り近寄ってくるなんて思いもしないだろう。失敗しても双子だと思う。
「オレです。トルコです。昨日会った。」
 癖である口の悪さが出てこない様に必死に気を付け、そして懸命に自己紹介をして日本の手を握ろうとして、躊躇した。そしてやはり握れなかった。
「あの……その仮面、どうなさったんですか?」
 凄く聞きづらそうに少々目線を反らしてから、そっとトルコを上目がちに日本は見つめてようやっと訪ねる。昨日の不良顔の方がなんぼもましなのだが……と、そんな事は当然言える筈も無く。
「実はオレ、顔に刀傷があんで……あるんです」
 必死に口調を直すトルコの横で日本が「え!」と驚いた声を出した。ああ、そういえば刀傷があったような気もするし……否、流石に無かった気も……
 でも有るのに無いというのも、無いのに冗談で有るっている可能性だってあるし……勿論トルコが口から出任せを言ったのだが、言われた当の本人の日本は目をグルグルとさせて懸命に考えた。考えた結果、咄嗟に作った人口笑顔でうふふと汗を垂らしながら笑った。
「そういえばなきにしもあらずでしたね。」
 そうトルコと日本は笑い声(日本は焦って渇いた笑い声)を上げる。とんだボケの垂れ流しに、後ろで心配そうに眺めていたドイツが溜息をついた。
 そこでようやく新事実に気が付いたのだが、新学期が始まって既に一ヶ月が経とうとしていたのに、この時初めて、といえば当然だが初めて、トルコは日本と同じクラスである事に気が付いたのだだった…!
 これは正しく奇跡!席は離れているけれど(これで近かったら完璧にトルコの脳がやばい)これは奇跡以外の何物でもないだろう……!と一人握り拳を作ってひっそり神に感謝していたその時であった。トルコの後ろに居た日本の更に後ろから、ニョッキと大きな影が急に現れる。
「日本、おはよう……で、誰コレ……?」
 どこか間延びした、そして些か眠たそうな口調でぼんやりとその大きな影の持ち主は呟いた。
「ギッ……ギリシャ!」
 ギリリ、とトルコはその影の主の名を呼びながら歯噛みする、が、いつもトルコが目の前に居れば途端に機嫌が悪くなる筈のギリシャも、今日だけは眉間にちょっとだけ皺を寄せるだけ。
「……誰?」
 困った様な口調で少しだけギリシャが頭を傾げるのに対して、自分は顔を隠しているという事をすっかり忘れ去っていたトルコは額に青筋を立てた。
「てめぇ、オレの顔忘れたってぇのかい」
 ギリギリとメンチを切りつつトルコはギリシャに顔を寄せるも、
「顔……見えない……」と眉間に皺を寄せたままギリシャが呟けば、トルコは「あっ」という顔をしつつ(周りには見えない)腕を組む。
「日本、今日日直。一緒に出席簿取りに行こう……」
 ポンッとギリシャが日本の肩に手を置いた瞬間、思わずという感じでトルコも日本の方へ腕を伸ばしかけて、空を掻いた。トルコの手が届くよりも早く、ギリシャが日本の体を己の方へ引っ張ったからである。
 ムッと盛大に眉間に皺を寄せるも、その仮面で見えないのだが、それでも険悪なピリピリとしたオーラをトルコが全身から発する。と、ギリシャも同様にいつもの彼とはまるで正反対といって良いほどに険悪なムードをその全身から漂わせる。良く状況が分かっていない日本を取り残して、そこの雰囲気は今にも雷鳴轟かんとする景色だ。誰も彼もがこの異色トリオに驚いて目を向けていた。
「俺達職員室に行くんだ。だから、トルコの相手なんてしてられない……」
 普段温厚というか寧ろ常時日向ぼっこをしている猫と例えられている筈のギリシャが、その顔に陰を落としつつそう言えば、黒いオーラを感じ取り観ていた人の中で、ようやっと仮面の主がトルコだと気が付いた人は、二人を刺激しないように静かに驚く。
「オレだって分かってたのかい」
 忌々しげなトルコと黒々としたオーラを出したままのギリシャに挟まれたまま日本は不思議そうに二人を見上げるばかりで、やはり良く状況は分かっていないらしい。
「行こう」
 ギリシャに腕をとられて教室を出て行った日本を、詰まらなさそうにトルコが一人見送った後、近くにあった机を蹴り上げて見学していた人々に威嚇した。
 
 
 ギリシャと日本の友好関係は長い。実はお兄ちゃんこと中国の溺愛伝説よりも長い。
 二人の関係は猫を追いかけて日本達の屋敷にギリシャが迷い込んだ事から始まる。話せば長くなるので多少端折ってお伝えすれば、同じ小学校に通い、六年生の頃親の仕事の都合で一度遠くにギリシャは引っ越した。そして高校生になり戻ってきたのが、今だ。この間それこそ沢山な物語があったのだが、それも長くなるので端折っていきたいと思う。否、決して考えるのが面倒だとかそんな事では無い…!……無い……
 プレイボーイと呼ぶには些かぼうっとしているのだが、来る者拒まず、去る者追わずなギリシャには顔も良いしそれなりモテたりもしていた。が、特に何かに固執したりしない彼が、唯一日本に猫の様に懐いているというからみんなの噂の的だったりする。やはり当の二人はまるでそんな噂等知らないのだが。
 ずっと小さな頃から日本と一番遊んでいたり話してたりしていたギリシャは、日本が小さな頃について実は少々後ろめたさがあった中国にとってやり辛い存在である。自分の知らない彼女を良く知ってるし、また幼い頃の日本を慰めたり楽しませたりしてきたのも彼、ギリシャだからだ。


 が、そんなギリシャが日本と屋上でお弁当を食べている姿を見留れば、中国の眉間の皺もそれは深くなるというもんだ。しかもそこに居るのはギリシャと日本に二人っきりではなく(二人っきりでも問題だが)怪しげな仮面の男付きであれば尚更。
「何あるか、ソレ?」
 暫くこの異色トリオを見つめた後、思いっきり不機嫌な声色で中国はトルコを指さした。と、日本の右横にピッタリと座りトルコの顔を見ないようにしていたギリシャも、それこそ思いっきり不機嫌な顔をする。
「何か付いてきた……」
「トルコさんですっ」
 憂鬱そうなギリシャと反対に日本はもふんわりと笑って機嫌がよさそうに兄に怪しげな人物の紹介をした。友人を作るのが苦手な為か、(勝手に本人がそう思い込んでいるだけなのだが)例え仮面男でも友達が出来るのは日本にとって喜ばしい事らしい。その笑顔を見ればこの場に居る者達は(愚かにも)仮面男の事などどうでもよくなってしまう。因みにどれだけ嫌っている相手が居ようとも腰を上げてここから去ることも出来なくなる。
 そうして不可思議なパーティー……否、グループがここに誕生した。お陰で恐ろしくて誰も昼休みの屋上に出てくる事が出来なくなった。そして勿論、食事中の空気は最悪なのだが、どうにもやはり日本だけその事に気が付いていなかったりする。
 
 そんな不可思議状態が数日続いた後、不意にトルコへのチャンスが正に天から降ってきた。  それは日本の兄である中国の委員会の集まりと、ギリシャの部活動が(トルコにとって)運良く重なったのだった…!いつも兄と帰宅していた日本を一緒に帰ろうと誘うことに成功したのだった!おめでとう!
 ニッコニコ(仮面で表情は分からないが)と日本の隣で笑うトルコと、そんな不思議生物の隣でいつも通りふんわりと微笑んでいる日本。正にカオスなのだが、周りも些か慣れたものでもう一々噂を立てたりなどしていられない。目も合わせないが。
 因みに何故怪我が治った今でもトルコが仮面をしているかについては、少しばかり言及しておかなければならないだろう。その心は、今まで全く眼鏡を離さなかった眼鏡っこの心境と同じ!つまり今更その眼鏡を外すことが返って恥ずかしいのだ。なんだかいつも仮面を付けていたトルコにとって、正にその仮面が眼鏡っこの眼鏡的地位に佇んでしまっているのである。
 つまり、今更素顔を晒す方が、なんだかちょっと恥ずかしいのである。
 
 (日本の前なら)饒舌なトルコの話に日本も飽きることなく、二人が出会ったあの土手に差し掛かった時、不意にトルコは初めて日本と出会ったシーンを克明に思い出し思わず歩みを止めた。日本もつられて歩みを止め、不思議そうに彼の名を呼んで首を傾ける。
「日本さん、初めて会った時何か千切っていやせんでしたかい?」
 正に好奇心だったのだが、その千切った紙が雪の様に舞い散る光景に心を奪われたのもまた真実だった。と、トルコの台詞に日本は少しだけ目を見開き、ほんの僅かだが眉を悲しげに歪めた。
「いっいえ、言わなくてもいーですから!ちょいと気になっただけです。」
 日本のその表情に慌ててトルコがそう言うが、日本はちょっとだけ口の端を上げて微笑むと、緩やかに首を振った。
「……あれは、昨年事故で他界した両親と兄と私が映った、一枚だけの完璧な家族写真なんです。でも、見ると泣いちゃうし、私には大切な兄という家族も居るから……」
 俯き加減に、それでも日本はちょっとだけ笑みを浮かべた。
「だから破ったんですかい?」
 トルコが真剣な顔つきで日本と迎え合えば、ちょっとだけ戸惑うように日本が彼を見上げて頷く。
「寂しく無いんですかい?」
 トルコの質問に日本は はい、と笑おうとして、止めた。
「少し、寂しいです。」
 顔を上げつつも笑うことに失敗した日本は、泣き出しそうな表情のままジッとトルコを見つめてその長い髪を風に任せたまま揺らす。
「日本さん……」
思わず一歩踏み出して日本に近付いたその瞬間、「トルコ!」と背後からまるで望んでいない、その上聞いたことも無い男の声が響きビキリとトルコの額に青筋が刻まれる。そして仮面を付けているというのに誰もかも(日本以外)を圧倒させるであろう暗黒オーラを出しながらゆったりと無言のまま振り返った。
 その迫力に驚いたのか、呼び止めた主である違う学校の学ランを着ていた男は思わず一歩退いた。が、そこは怯んでいない振りをして己を奮い立たせている。
「トルコ、これからツラァ貸せや。」
 今時天然記念物とでも言おうか、もしかしたら国から保護命令が出るんじゃないか、って程懐かしい格好に身を包んだずばり“不良”に思わず日本は感動すら覚えた。(私の近所には居るよ!涙)
「……どこで?」
 そう訪ねたトルコの問いに、男は近場の人気の少ない裏路地を指定する。不安げに後ろからジッと二人を見つめていた日本を、バッとトルコが振り返るとニッコリと笑った。
「日本さんは先に帰ってて下さい」
 でも…… と不安そうに呟いた日本の背を押し無理矢理歩かせ、それからパッと後ろを振り向き先程の男を睨んだ。
「後から行くから、テメェは先に行ってろい」
 首を振る日本をどうにか説き伏せて彼女を自宅まで送ると、取り敢えずいったん帰宅すると隠し持っていたバットを一本手に持って指定された場所へと向かった。太陽は大分傾き、もうそろそろまた一日の最後として真っ赤に燃えさかるだろう。
 
 
 
 ズラリと並んだ学ラン姿の男達に囲まれ、手に持ったバットを強く握りしめながらトルコはその人数を数える。7人。一人で戦って勝てる人数では確実に、無い。となれば逃げるだけなのだが、それはあまりトルコにとって好ましい事では無かった。そしたらもう、迎え入れて殴り殴られるしかあるまい。
 そうトルコが覚悟を決めた瞬間だった。トルコの真後ろにあったコンクリートの壁からスカートをひらめかせ一つの影が落ちてき、地に足を付けるとその手に持っていた木刀の切っ先をビシッとヤンキーの一人に向ける。
「なっ……」とどよめく七人の学ラン男達とトルコ。
「に、日本さん!!」一番慌てたのは勿論トルコであり、小さな体で大きな木刀を持って自分の前に立っている少女に手を伸ばしかけて、止めた。
「助太刀いたします!」
 どこか時代劇めいた口調でそう宣言し、その顔をムン、と引き締めた。が、やはり勇ましいというよりも愛らしい。
「ちょっ日本さんそんなモン扱えるですかい?!」
 トルコが日本の手に持たれたソノ武器を指さすと、日本が自信ありげにコクリと一つ頷く。
 と、そこに居た数人のヤンキー(トルコを含む)が戦く。そう!大抵こういうヤンキー漫画に出てくる一見お淑やかそうな少女、例えば『エンジェル伝説』しかり『今日から俺は』しかり『湘南組』しかり『すももももも』(違っ)しかり、もの凄い武道の達人だったりするのである。そう言えば日本の兄である中国は、もの凄い武道の達人だと聞いたことがある、とトルコは期待を込めて戦いた。
「私は小さな頃中国さんと剣道もやっていました。小学校の四年生から、五年生まで!」
 ビシッとパーの手をしてみせて、それを大きく掲げた……
「って、一年間!?」
 突っ込んだのはトルコである、が、何だか少々得意げな日本に対してそう堂々と突っ込む事が出来ずに「一年間!?」と叫んだだけで終わった。しかも止めた理由が兄である中国に危なっかしすぎて見てられないからと言われたからだなんて、当然言えない。
「日本さんは下がっ……」下がってと言うよりも早く、高く掲げていた木刀を、両手でしっかと掴んだままエイヤッと目の前で笑っていた学ラン男の真横に突き落とした。腕力も握力もそこまで強くないため、まったくもって無軌道な線を描いてズドンと地に音立てた。
「よ、避けてくださいね」
 手加減など出来ない。出来るほど力も無い。それでも、例えか弱い女でも、木刀は重く堅く、当たれば痛すぎる。日本のおずおずとしたその台詞に、学ランの男の血の気がサッと引いた。そして血が引き終わるよりも早くに日本はもう一度木刀を振り上げやたらめったらにブンブンと振り回す。
 その被害者は学ラン男だけではなくトルコまでもが巻き込まれかけてワアワアと男達は取り敢えず散り散りに散りつつトルコはしっかり日本の傍を離れない。日本の繰り出す不可思議な攻撃に相手が狼狽しているのを良いことに、取り敢えず近場の男を一人捕まえて顎を狙い一発殴った。グラリと相手が肢体を揺らしたのを確認してからその太ももを思いっきり蹴り上げた。
 そうして一人地に倒したのに、周りの人間は未だに日本の動きに驚き戦きコチラで一人倒した事すら気が付いていない。思わず一生懸命木刀を振り回し続けている日本を見つめてグッとトルコは握り拳を作った。「勝てるかも知れない…!」との思いが彼の胸中に湧き出でた。
 が、現実はそんなに単純で愉快で簡単では無いのだ。トルコが二人目を殴り終えた時、日本が振り回していた木刀がとうとうその手からすっぱ抜けて目の前に居た男の顔面にぶつかり鼻血を噴き出させた。「あ」という呟きの後に、日本は思わず駆け寄り謝りかけた所を慌てたトルコによって首根っこを捕まえられて止められる。
「だめだめ、だめですぜぃ、ありゃぁ死んだふりですぜ!」
「し、し、死!?」喧嘩として木刀で人を殴ったのが初体験だった(当たり前だが)日本にとって『死』という単語はあまりにも重すぎた。思わず両肩をすくませてトルコを見上げ泣き出しそうな声を上げ、トルコはトルコでそんな日本にアワアワと「今のは言葉のあやで……」と弁明をしたりなんだりとしていた、その時だった。先程倒れた男が鼻血を拭きつつ立ち上がり、右手に持っていたバットを大きく振り上げる。
 一つの息を飲む前に日本の頭に振り下ろされたが、日本の頭にぶつかるよりも早く反射神経の様に伸ばされたトルコの腕がそのバットを受け止める。酷く鈍い音が響き、渋い声がトルコの口から漏れた。
「トルコさんっ!」
 日本の悲鳴が辺りに響き、トルコはトルコで思わず受け止めた場所を掌で押さえながら冷や汗をダラダラ流しながらも、日本に笑顔を送った。
「全然痛くないですぜぃ。ましてや骨なんてなんともねぇです。」
 イヤにハイテーションでアッハッハッと笑いながらその顔を真っ青にさせて、トルコはブンブンと大きく顔を振る。……骨の事なんて聞いてないのに。
「このアマ!」
 散々その木刀に脅かされていた男の一人が日本の長い髪の毛をおもいっきり引っ張ったが為に、日本の体勢が崩れ倒れた。アスファルトの上に膝を付き、髪を引っ張られた痛みに小さく呻く。
「てめぇ、日本さんに触んじゃねぇ」
トルコが一歩踏み出すよりも早く、先程トルコに殴られた筈の一人が、口の端を腫らして地に膝を付けたままの日本を後ろから抱える様にして、ギラリと光る冷たいナイフの刃を日本のその喉元にあてていた。日本とトルコは同時にピタリと動きを止める。
「動いたら刺すぞ」
 その台詞でチッとトルコが一つ舌打ちすると、手に持っていたバットをゴロンと地に落とした。と、まだ怪我を一つも負っていない男に鈍い音を立てて一度顎先に拳を入れられ、体勢を大きく崩す。結局7人のうち伸せたのはたったの3人。武器を捨てて無抵抗になったトルコは盛大に2,3度殴られた。
「トルコさん!」
 その肌が血に濡れていくのを、大きく目を見開いて目を決して離さずに日本は悲鳴を上げる。そして抗議の声を上げるよりも早く、素手で自分の喉元にあてられた煌めくナイフをグッと掴んだ。皮膚が一枚裂けて真っ赤な血が日本の白い指を伝い、ポタポタとアスファルトに赤黒いドット模様を描く。
「何してんだ!?」
 慌てて不良がナイフを引きかける、が、それよりも早く日本はナイフから手を開き、自分を捕まえていた男に後ろ向きのまま体当たりをしてやった。
 あまりにも意外な反撃だったが為に構えていなかった男は体勢を崩して、日本と共に倒れ込み頭を壁に思いっきりぶつけ、そして意識を手放す。
「日本さん?!」
 初めて会ったときと同様口の端と鼻から血を流したトルコ(仮面もちょっと壊れている)が、慌てて顔を持ち上げて、手を一杯に開いてコチラに走ってくる姿を見つめ、不可抗力の時に殴られた痛みすら忘れて走ってきた天女を泣き出さんかの様にその手を広げて待ちかまえた。
 が、スローモーションで駆け寄ってくる彼女が正に己の胸に飛び込まんとした瞬間、バキッと音を立てて何か硬球らしきもの(というか硬球)が顔面右側面に勢いよくぶつかってきた。その為、トルコの体は大きく左に傾き日本の吃驚して立ち止まる。
「手が、滑った……」
 謝罪、なんていう言葉を一切持たないかの様ないつものぼんやりとした心のこもらない台詞とともに、真っ赤な夕焼けを背景に現れたのはギリシャだった。
「ギッ、ギリシャ」
 怒りのあまり声も出ないのかもしれないトルコが、今日一番の傷を作った相手(ギリシャ)を睨みながら青筋を作りゆっくりと立ち上がる。が、相手の筈のギリシャはそれ所では無く、日本の血で濡れた掌を目敏く見つけてクッと息を飲み込み雰囲気をいきなり真っ黒に染めた。
「日本に怪我させたの、誰?」
 ゆったりとしたしゃべり方とは真反対なギリシャの雰囲気に、たったその一言だけで周りが一歩引き、ズカズカと日本トルコと不良の合間を歩いてやってきて、血に濡れたナイフを手にした一人の男の前で立ち止まる。男が構えて何か言うよりも早くその襟首を捕らえると、殆ど拳を振り上げずに男の顎を捕らえる様に殴る。バキッと鈍くいい音が響き、その後続けざまにもう一発殴った。
 口の中が切れたのか、血が男の口から溢れて振り上げた所為か飛びはねギリシャの白いシャツに点の染みを作り上げる。
 もう一度腕を振り上げかけた所で慌てた日本がギリシャの名を呼びつつ彼の背後からギュッと抱き付いた。右手の怪我から真っ赤な血が垂れて益々ギリシャのシャツを真っ赤に染める。が、そんなのはどうでも良かった。
「もう、大丈夫ですから。止めて下さい!」
 半ば泣きかけた日本の声につられる様にそっと目を落としてキュッと目を瞑った日本の顔をジッと見つめる。それからパッと持っていた襟首を捨てるように離し、そっと日本の頭の上に手を置く。
「刃物で刺されたの?……さっき警察に電話したから、多分もうすぐ来るよ。」
 ザワリ、不穏な空気を出し口々に何か喚きつつも学ラン姿の男達が逃げ出すのは速かった。否、もっと前からこの場から逃げ出したかったのかも知れない。
 後に残ったのは伸びてしまった数人に、日本とギリシャと、硬球と殴られた所為で頭が未だにクラクラとしているトルコだけとなった。
「日本、手。」
 ギリシャは日本の怪我した右手をそっと掴むと壊れ物を扱うようにジッと見つめて、暫くしてから少しだけ首を傾け、ポケットからスルリとハンカチを取り出すと未だに血が滲むその掌にきつく巻き付ける。
「そんなに深くない、から、多分傷は残らない……けど、何でこんな所来たの?」
 ふんわりと一瞬微笑んでから、キュッと眉を持ち上げて決まり悪そうな顔をしていた日本を睨む。日本は真っ黒な瞳で上目がちにギリシャを見つめると、困った様に眉を歪めた。
「だって私、トルコさんと友達ですから」
 スッパリ言った日本の台詞に、本当ならば悲しむのか喜ぶのか危うい所なのだが、トルコはとことん嬉しそうにクラクラしていた頭をガバリと起こしてその目を輝かせる。ついでに祈っているかの様に両手を合わせた。
「トルコさん、大丈夫でしたか?」 明らかに「あっ」と今気が付いた様に日本が振り返ってトルコに訪ねたが、それはそれで幸せなのだろう彼は、ニコニコとしながら何度も頷いてみせた。本当は体中痛いのだが、そこは根性根性ど根性である。
「バカは頑丈だから……」
 ギリシャが無表情でボソリと呟くと、ニッコリ笑っていたトルコは表情を変えずに雰囲気を一気にどす黒く変えてギリシャに向き直る。
「ってか、なんでテメェが来るんでぇ」
 トルコは腕を組みつつ、ギリシャは仁王立ちのまま、お互い鼻先を当てんばかりに身を乗り出すとバチバチと花火を散らして睨み合う。その後ろで日本がニッコリと微笑んで嬉しそうに言った。
「私が電話しました。トルコさんとギリシャさん、いつも仲がよろしいですから。」
 とても嬉しそうに日本が笑うものだから、もはや反論する事も馬鹿らしく、その上日本の前で喧嘩をすれば日本が悲しそうな顔をするという事についても既に学習済みの二人は、トルコは笑顔を取り繕いつつギリシャはいつも通りの雰囲気に戻った。そしてコッソリと同時に溜息を吐いた。
「そろそろ帰ろう……あ、警察の話は嘘だから」
 飄々と言ってのけたギリシャのその台詞に、思わず日本は破顔した。
 
 
「あっ!すいません、俺鞄さっきのトコに置いてあんでした!ちょっと取ってきますわ。」
 数メートル歩いたところでトルコがあっ!と手を叩き慌てて元来た道をダッと走り出す。ギリシャは出かけた文句を日本の手前言えずに口内がムズムズとむず痒い気がした。
 が、やはり日本は笑顔でそのトルコを送り出している。それから、「ギリシャさん、来て下さって本当にありがとう御座いました。」と、トルコを見送ったままの姿勢、ギリシャに背を向けたままの日本がポツリと漏らすように礼を述べた。黒い髪の毛が夕陽を受けて何処か深緑色に見えた。小さく華奢なその背中は、幼い頃の彼女のままの様でそうでない。血の滲んだ日本の掌に巻かれた布が少々冷たい風に揺れた。
「俺は、日本が電話してくれたから来たんだよ……」
 ゆったりとした口調で小さく、本当に小さくギリシャがそう言うと、日本がパッと振り返った。日本の背後にある夜の色を含みより黒味をました赤い夕陽が輝き、目が痛い。
「何か言いましたか?」
 本当に聞こえなかったらしく、彼女は少しだけ首を傾けるとふんわりと微笑んで問いを返してくる。
 ずるい。日本はずるい。 声に出さずに呟いても、やっぱり彼女には伝わらない。いつまでも、そしていつも虚しくなる様な一方通行。
「何も言ってない……」
 微笑んだ彼女から少しだけ目線をズラし、土手の脇に生えた草を眺めながら呟くと、彼女はちょっとだけ眉を歪めて首を傾ける。そしてまた、でも少し悲しそうに笑った。知らず、自分の動悸が早くなる。
「日本さーーーん!お待たせしやした!」
 その時、タイミングが良く(トルコにとって)も悪く(ギリシャにとって)も出来るだけギリシャと日本を二人っきりにしない為にか、トルコは猛ダッシュで自分の鞄を抱えて戻ってきた。チッと小さくギリシャが舌打ちすれば、耳ざとくそれを聞きつけたトルコが再び暗黒オーラを放出する。
 が、そんな二人の後ろでやっぱり日本はニコニコと微笑んでばかり。
「さぁ、帰りましょう!」
 ヤンキーの喧嘩に巻き込まれたなんて到底思えない楽しそうな口調で日本が歌うようにそう言えば、睨み合っていた二人が半ば不服そうに、それでもお互い顔を離して日本の後に付いて歩き出す。真っ赤な夕陽は後数分でその顔を隠してしまうだろう。殆ど無言のまま三人で歩くのだが、だいっきらいな奴が隣に居ようと取り敢えず日本を安全な(つまり中国が居る)家まで送り届けるのが第一。
 
「日本さん、今日はすみやせんでした。」
 家の前で門に入りかけていた日本に、トルコが沈んだ表情で小さく謝ると、日本は一瞬驚いた様に瞳を大きくさせてから、ゆったりと微笑んだ。
「トルコさん、最近はあんまり寂しく無いんです、私。」
 にっこりと笑った日本が心持ちトルコに体を寄せるから、思わずトルコは半歩体を退きつつ顔を赤くする。ギリシャはギリシャで唇を突き出してつまらなさそうに目線を反らした。
「みなさんと居ると、とても楽しいから」
 み な さ ん ピシリ、とトルコが固まり、ギリシャが噴き出し、日本は頭の上に大きなクェッションマークを浮かべて笑顔のまま首を傾ける。長い髪がサラサラと小川の様に絶えず揺れた。
 まぁ、それならそれでいいかとショボンと一度垂らした首を持ち上げ笑う。
 
「それではまた明日。送って下さって、ありがとう御座いました。」
 いつもの凜とした涼しい声で日本はそう言うと、手を振りつつ家の中に消える。トルコはそれまでのにこやかな笑顔をパッと消し、ギリシャは振っていた手をパサッと下に落とした。そして自分の家とはまるで違う方角に同時に互いに背を向けて歩き出す。とことん一緒に帰ることだけは避けたいらしい。
 いつの間にか完璧に太陽は落ちていたらしく、空は紫と黒のグラデーションを描いていた。
 ふと何かを思い出したかのように、二人は違う場所で同時に空を見上げた。風に靡く美しい黒髪、笑顔。
『みなさんと居ると、とても楽しいから』
 と彼女は微笑んだ。それならそれでいいのかもしれない、と、まるで種類が違い互いに嫌悪丸出しなくせに同時に同じ事を考えるあたり、実は同族嫌悪なのかもしれない。
 取り敢えず今は、笑ってくれるなら。