メモ用に書いた筈なのにノリノリになった学園パロ(日本総受け)
※ 日本は女の子です。後年齢は実史をまったく考慮してません。
学パロ
自分達は器用ではない。感情に対して素直でも無い。酷く口下手で、ネガティブな面まである。
それでも、否、それだからこそいっそ貪欲な程に言葉と長い時間が必要であった。けれどもう、時間は無い。普通に過ごしている合間は、まるで延々と続くのではないだろうかと思っていた時間は、いつだって底をつく準備をしていたのに、気が付けなかった。
独日 02
二学期が終わったら本田荘を出ることに決まり、タイムリミットは正式に約二ヶ月半後と決定した。そう報告した時も、やはりイタリアは泣き中国は膨れ、彼女は少しだけ眉を歪めて微笑んだ。
それでも自分は知っている。あの夜、二人で公園に行った日の夜、確かに彼女は泣いた。何も言わなかったけれども、恐らく過信なんかでは無くて、それは確かに悲しいという現れだったのだろう。何が?と、こんな状況だというのに軽い喜びさえ覚えてしまう自分が、酷く情けなかった。すぐにここを出て行かなければならないというのに……
けれどあれからというもの特に進展があるわけではなく、いつもの様に起きて、いつもの様に学校に向かい、食事をしては眠る事を何度も繰り返す。何かが大きく変わってしまう事よりも、いつもどおりに暮らすことの方が確かにとても幸せではあった。が、どこか物足りない気もした。
どう行動していいものかまるで分からないものだから、この変化の切っ掛けに乗じて何かが変わるのを密かに望んでいたからだ。
……困ったものだと、ドイツは小さく首を鳴らした。
「ドイツさんっ」
不意に背後から名を呼ばれ振り返ると、そこには彼女、日本が何か大きな本を抱えてコチラにパタパタと駆けてくる。休み時間、ずっと自分を探して走っていたのか、軽く頬が上気していた。
「……どうした?」
その突然の登場に思わず体温が上がるのを感じ、知らず目を反らす。
「あの、お別れ会をするときの料理なんですが、リクエストがありましたら何でも言って下さいね。」
どれだけ盛大なパーティーでも開くつもりなのか、まだまだ時間があるだろうそんな事を笑顔で日本は言った。しかもそんな事を尋ねるためだけにここまで走ってきたのだろうか。
「日本の料理は何でもうまいからな。特にたっての希望は無いが……」
そう、日本の手を煩わせない為に言ったのに、彼女は軽く俯いて歯切れ悪く「そうですか……」と呟いた。どこかガッカリした様子にドイツもドイツで何か失言したのかと青くなる。
「で、ではあのご飯の上に海鮮物が沢山乗っている……」
ドイツの言葉に日本はパッと顔を持ち上げ、嬉しそうに大きな瞳を三日月型にさせて微笑んだ。
「散らしですね。腕によりを掛けてお作りします。……あの、お昼ご飯はまた皆さんで食べましょうね。」
生徒会や委員会が各々で忙しくなる前は、本田荘の住民はお昼ご飯まで共にしていた。最近またイタリアが「みんなで一緒にたべよー!」とかいうものだから週一の委員会の集まりをサボり、生徒会もサボり、更には何故か本田荘以外の人間が数人混ざって結構な大人数になっていた。
それはまぁ、イタリア的に言ったら『喜ばしい事』なのだろうが、ドイツ的に言ったら『胃が痛む事』である。が、勿論嫌だなんて言えるわけもなく、微笑む日本に向かって「ああ」と頷いた。瞬時、本当に嬉しそうにニッコリと笑うものだから溜まらない。
「あの、今日も部活……でしたよね?」
上目勝ちでこちらを見やる日本に、平静を保ちながら脳内は彼女の思考を探ろうと懸命に働く、が、経験値不足なのか想像力欠如しているのか、やはり彼女が言わんとしている事は分かりかねる。
「ああ、部活だが。」
そうドイツが返事をすると、パッと顔を輝かせた日本が笑う。
「あの、私今日委員会なんです。だから……その……」
最初ばかり威勢良く言いながら尻すぼみがちになりやがて恥ずかしそうに俯く。首から頬までほんのりと赤くなる日本を見やりながら、ドイツは混乱を来しながら内心彼女が言わんとしている事の見当はついた。が、口に出せないのがドイツがドイツたる所以ではあるまいか。
「一緒に……帰りませんか?」
気を抜いていたら聞き逃してしまっていただろうという程小さな声で、日本はポツリと呟く。目線を合わせないようにしている彼女の瞳が、恥ずかしさにか不安にか揺れ動くのを見つめながら、自身の頬までも赤くなるのが分かり居たたまれない。
「あ、ああ。」
居たたまれないのは確かだが、それよりも嬉しさが勝って考えるよりも早く頷く。ニッコリと笑い「それでは校門で待ってます」と日本が声を弾ませた。
自然、早くなる手つきでさっさと着替えて鞄を持つと、部室の隣のロッカーを使っていたフィンランドが顔を持ち上げる。
「ドイツさん今日早いですね。なんか用事あるんですか?」
そう悪気など一切ない笑顔で問われ、思わず返答に困りながら適当に受け流す。
「でもドイツさん、今学期もちゃんと練習に出てくれて嬉しかったです。」
綺麗に制服を着直すフィンランドに少々驚いて目線をやると、一瞬「あっ」という顔をしてか眉を困った様に曲げて彼は笑う。
「だって、ドイツさん来学期から帰っちゃうんですよね?……なのに部活に出てくれるの、嬉しいです。」
フィンランドはそう照れて笑い、ドイツは思わずハッとさせられた。来学期もう学校に来ないことが、今になってやっと現実味を帯びた出来事となった気がしたのだ。ドイツが微妙な表情のまま固まったのを、ニッコリとした笑顔から微妙にぎこちない物に変えてフィンランドも固まる。
と、そこになぜだかいつもフィンランドを迎えに来るスウェーデンが部室の扉を開けたために二人の会話はそこで打ち切られる。いっそフィンランドは内心ホッとしながら部室に残っていた人々に頭を下げてそそくさと部屋を後にする。残されたドイツも少々考えるような表情をしてから、ふと日本の事を思い出し急いで荷物を纏めた。
もう秋になったのだと感心してしまうほどに早く太陽は沈み、辺りは薄暗い。その薄暗い中、ポツンと校門に背中を預けていた日本が、パッと顔を持ち上げてコチラに目線をやり、微笑んだ。
瞬時、何かが溶ける様な暖かさと一緒に、グッと胸の奥が詰まるような心地がする。手を伸ばせばすぐそこに居る、その事実がいっそ今は辛いべきなのだと、この時初めて気が付いた。
「ドイツさん」
彼女が自分の名前を呼んだ。ここへ来てから何度も見てきた彼女の顔も、どうしてあと僅かしか見られないということに気が付かなかったのか、あの本田荘で暮らすことも、疑似家族とはいえ居心地の良いあの空間にも、もう少ししか居られないのだ。
「どうしたんですか?」
ぼんやりと立ちつくしていたドイツに駆け寄り、日本は首を傾げて自分よりも幾分も大きなドイツを不安そうに見上げる。
「いや、なんでもない」そう言って慣れない笑顔を浮かべ、二人ともドギマギしたまま校門から一歩踏み出す。辺りは暗く、部活帰りの生徒がちらほら居るだけであまり人気もない。ただ歩いているだけで指先が冷たくなるほど、もう大分気候は寒い。
こうして二人だけで連れ立って歩く事なんて殆ど皆無だっただろうし、チャンスなんて中々無かった。が、本当は傍にいられる時間なんて腐るほどにあった。ただそれに気が付かない振りをしてきて、遂にここまで来てしまった。
「あの……」
重たい沈黙を破って、日本が俯きながらも声を上げる。暗くとも分かる程に頬を朱く染めたその姿に、チクリと胸が痛む。
「ドイツさんの残りの時間、少しで良いから私にも分けてくださいませんか……?」
自身なさげな、微かな、そして震えた声色で問われたその言葉に、思わずドイツは足を止めた。肩に担いだ部活着が自然ズレ落ちかけて、また担ぎ直す。
「……少しで、いいんです。ドイツさんが望む分だけで構いません。」
日本は立ち止まったドイツを、数歩分離れた所で振り返る。真っ白な光を放つ人工灯の真下に、まるで舞台上でスポットライトを浴びているかの様な日本がジッとドイツを一心に見やっている。真っ黒な瞳が、微かですら離れない。
その姿が、どこか現実離れしていて、思わずドイツは息を飲み込んだ。
「だって私……あなたの傍に、い……居たいんです」
思い切ったかの様にそう言い切り、瞬時に泣き出しそうに表情を崩して日本はドイツを見やった。瞳の下にキラキラと水が溜まるのを見て、やはり何も言えずにドイツはその場に立ちつくす。
が、すぐにドイツはその日本の姿から無理矢理目線をズラして、汚れた壁を見やる。
「……オレは……」
言葉に詰まり黙り込む。このまま行ってしまうまでこれまで通りにして、何事もない様に別れ際も笑顔で手を振って……それで良いのかも知れないと実際は思っていた。何かを置いてきてしまった、そういう思いを抱かずに国に帰る事が出来るし、これ以上彼女との距離を詰めると離れただけで不安に陥るかもしれないのが、恐ろしい。
今度は長い沈黙がのしかかり、冷たくなった風が二人の合間を縫って走った。人工灯の下に立っていた日本は、一瞬キュッと目を強く瞑ってから顔を持ち上げる。そして無理にでも笑顔を作った。
「いいんですっ、ドイツさん。ドイツさんが優しいから……我が儘言ってしまって申し訳ありませんでした。」
もう一度開かれた瞳が揺れる。小さな、赤い唇が戦慄いて表情が完全に崩れる。泣き出す一歩手前のその表情に、思わず手を伸ばしかけて引っ込めた。この間の夜の様に、本当は強く抱きしめてそのまま全てが終わってしまえばいいのに……それでも時間は止まらずに、結局彼女から離れなくてはいけない。
ならばいっそ、無駄な思い等しない方がいいのだろう。それは保守なのか、利口なのか。
「日本、すまない。……だが」
だが、お前の事は大切なんだ。そう言いかけて不意に閉ざされる。大切だ、と、どうしても言えずに立ちつくす。
大切だなんて言葉が、信じられない程軽い気がしたのだ。彼女の事を例えて使う言葉にあまりにも適していない気がして、それなのに他の言葉が一切見つからずに呆然とする。
「帰りましょう、ドイツさん」
無理して笑った日本の前で、眉間に深く皺を寄せ、傍から見たら泣き出しそうな表情をしているだろう自身を無理矢理頷かせてキツク一度目を瞑った。もう大分黒くなった空を、チカチカと白い星々が瞬いた。
それから暫くの日本はやはりいつも通りで、否、いつもより少しばかりテンションが高いといって良いほどだった。何か言いたいのに語彙力が無いのか、それとも性分なのか結局いつも何も言えずに今までと同じ様に過ごす。
ただ刻一刻と時間は確実に進み、地球は勿論回転を止めはしない。もうすぐここを離れなければならないのかと、空が暗くなる度に思った。
そうして時間が過ぎていく中、もう人気も少ない放課後に久しぶりに廊下で彼にあった。相変わらず女物の制服を着て、一見女と見まごう容姿をした彼は、酷く不機嫌そうに自分を見上げていた。
「なんだ……?」
そう一声声をかけた瞬間、すねに思いっきり彼、ポーランドの蹴りが入る。思わず顔を歪めてしゃがみ込むと、腕組んで仁王立ちしつつポーランドは逆に自身より下になったドイツをここぞとばかりに見下ろす。
「あんたなんか大っ嫌いなんだけどぉ、一つ、教えてやる。」
苛々とした口調でそう言ってから、ビシッとドイツに向かって真っ直ぐ指を指した。
「……日本が、あんたの所為で泣いたんだ。」
ドイツを睨み付けるポーランドの眉が歪み、体を乗り出してドイツのネクタイをガシッと掴んだ。
彼の脳裏には、先日元気の無かった日本の姿が浮かんだ。隣席に座っているから嫌と言うほど見ているその顔が、いつもよりも確実に影が落ちている。
『なになに、日本今生理中なのぉ?』っていつも通りを装って休み時間に声をかけると、顔を持ち上げた彼女の光の強い瞳が、その日は潤んで霞んでいる。ポーランドの癖に思わず言を探しあぐねて黙り込むと、困ったように日本は軽く肩を竦めて無理して笑う。
『なんでもありません』と、彼女は言った。どうして何でも無い事あるのか、まるで分からない。
初めて会ったときは始業式の時で、その時は新しいクラスには仲の良い、というよりほぼ依存していると言って良いリトアニアも居なかったし、何より自分と他数名を外してまるで他人に興味の無かった為に周りなどどうでも良かった。だから机の上に肘をついてただぼんやりとポーランドは外を眺めて不機嫌そうにしていた。
そうしてぼんやりとしているとポーランドの隣りに、彼女は腰を下ろした。もう二年生という事もあり、周りはもう打ち解け大声で喋っている中、彼女は自分と同様に周りに溶け込めないのか口を噤んだまま本を取り出す。
覚えたのは親近感だったのか、切っ掛けは何だか覚えていないけれど親しくなるのは割と早かった。
「別にあんたが日本の事好きでも何でもないっていうんなら、オレだって無理強いしないけどさぁ」
ググッと顔を寄せ、ポーランドはドイツを睨んだまま身を退かない。ドイツはドイツで眉間に皺を寄せてポーランドを睨み付ける。
「お前に口出しされる筋合いは無い。」
吐き捨てる様に言うと、ポーランドの手をパシンとはね除け立ち上がろうとするが、それよりも早くもの凄い衝撃がゴツンっと額にぶつかり思わず仰け反り小さくうめき声を上げた。ポーランドから頭突きをくらったのだと気が付くまで暫しの時間が必要な程の痛さだ。
「あんたが良くったって、日本が良くねぇんだよ!」
キーッ、と額を若干赤くしたポーランドが怒鳴り、目を吊り上げる。
「あんた本当にこのまま居なくなってもいいわけぇ?逃げるわけ?」
「なんでお前にそんな事を言われなければならないんだ。」
最後の意地でもあるかの様に、窓の向こうで沈みかける太陽は強い光を発して、二人の姿を赤く染め上げた。黒々とした影が、二人の下に色を付ける。
「あんたの為じゃないし。日本の為だし。」
そう、ポーランドの落ち着いた声色を聞いた後、シン、と二人は黙り込む。遠くで定時に鳴る夕方の音楽が流れる。
「……オレだって、日本の事は大切だと思っている。」
今度こそ立ち上がり踵を返し彼から離れるように歩き出す。不意に、背後から声が響く。
「結局、後悔すんのはあんただし。」
妙に間延びするやる気の無い声色なのに、その時ばかりは嫌にハッキリと聞こえた。が、やはりドイツは無言でその場を離れる。
家に帰り風呂に入り、いつもの様に髪を拭きつつ廊下を歩いていると、不意に窓の外に浮かんでいる月に目が留まり立ち止まった。見上げると濃い紺色の中に浮かんだ月は、若干いつもより明るく、そして大きく見える。
「何、見てるんですか?」
突然声をかけられビクリと体を震わせてから、慌てて声がした方を見やる。日本がいつものパジャマを身に纏ってコチラ見やり、ふんわりと微笑む。
「月を……」
半ば動揺しながらそう告げると、ドイツの横にまでやって来た日本が窓から空を仰ぐ。
「ああ、本当ですね。月が、綺麗ですね。」
そう言って空を見上げる彼女をそっと盗み見る。月明かりのぼんやりとした光が、彼女の輪郭を曖昧に、そして神秘的に描いている。大きな瞳を長い睫が縁取り、桃色の唇が笑みをかたどる。
その姿を見やりながら、ドイツも彼女の言葉に呟く様に同意した。
「そうだな。月が綺麗だな。」と。
その言葉に吊られるように日本も目線を上げてドイツの顔を見やる。目線がぶつかった時、月光に照らされた日本の黒い瞳がチラッと光った。
不意に、ドイツは夕方に聞いたポーランドの『逃げるわけ?』という言葉を思いだし、『後悔するのはあんただし』と吐き捨てられた瞬間を思い出す。確かに、自分は逃げているし、これから後悔するだろう事も予想出来る。
ならばいっそ、ここまで遠回りしておいてなんではあるが……と、そっと日本の頬に手をあてがい掛けて寸前で止まったのを、日本の小さな掌が包み自身の頬に押し当てた。彼女の小さな顔を半分覆ってしまいそうな自分の手から、あまりに暖かな体温を感じて少しだけ目を見開く。
それから大きく屈み込み、震えるのを抑えながらそっと顔を寄せると、彼女が瞼を閉じるのを確認して唇を触れるほどだけ塞ぐ。甘い香りが鼻孔をくすぐり、かえって酷く冷静だった心地が一気に沸騰するかの様だった。
一度唇を離してから、潤んだ彼女の瞳と目線をしっかと合わせてから、細いその体を抱き寄せる。互いの心臓が脈打つのを感じながら、ドイツは日本の耳元に口を寄せて囁く様に尋ねる。
「やはり、残りの時間、お前の傍にいてもいいか?」と。