学パロ

 

メモ用に書いた筈なのにノリノリになった学園パロ(日本総受け)

 

※ 日本は女の子です。後年齢は実史をまったく考慮してません。
  学パロは、本当は明るくて可愛い話にしたかったんです。本当は・・・orz

 

 まだ彼女が幼い頃は、二人で家の外に出たことなど無かったからか、小さな彼女は酷く楽しそうに足も軽やかに中国の隣りを笑顔で歩いている。まだ中国ともそれなり仲良くなっている訳では無いから、中国は何と言っていいか分からずにその姿を横目で見やった。
 目が合うと彼女は、不自然な態度といって良いほどに慌てて自分から目線を反らした。嫌われたものだと、中国はそう思わず苦笑を浮かべると、まだ覚束ない彼女の足取りが気になり、車道から離す為にその腕を掴んで自身左側に引っ張り、車道から離すと手の平を握る。
 嫌がるとばかり思っていた日本は、一瞬驚いた様な顔をしてからぎこちない笑顔を浮かべ、そして直ぐに俯いてしまう。けれども、彼女の包み込んだ手の平にギュッと力が込められたのに気が付き、微かな笑みを浮かべてから中国は彼女のつむじ辺りを見やった。
 行く当てなど無いから、二人とも行ったことがあまりないデパートに入った。沢山の家族連れが辺りにごった返していて、家族とはいかなるものかあまり分からない二人は、周りに目線を巡らせて、出来るだけ浮いてしまわない様につとめたのを、よく覚えている。
 屋上に小さな遊園地があるなんて、勿論知らなかったし、遊園地など行ったことが無かったまだ幼い日本は、目を輝かせながらも何も言わずに中国の顔を見やるから、中国は彼女の手の平に数百円握らせ、背中を押す。
 メリーゴーランドに乗って、心底嬉しそうに頬を上気させながら手を大きく振る日本に、待っていた中国は笑顔を浮かべて手を振りかえさそうとするのだが、何故か腕が上がらなかった。キラキラと太陽の光が彼女の存在を浮き上がらせ、クルクルとメリーゴーランドは回る。
 どうしてか、その時に中国は初めて日本と出会った様な気がしたのだ。楽しげな音楽が、辺り全ての雰囲気を豊かにさせ、誰もかれもが楽しそうに嬌声を上げる中で、彼女は誰よりも光りを纏っていた。
 それは、ずっと昔の、そして絶対に古ぼけない思い出。
 
 
 学パロ   中日
 
 
 イタリアもドイツも外出中で家にはおらず、家は久しぶりに静寂に包まれている。こんなにも寂しい家だったのか、と、その時初めて日本は気が付いた。
 電気を点けながら進んでいく中国に日本は付いていき、ダイニングに置かれた椅子に二人で腰を降ろす。オレンジジュースが注がれたコップを掴み、味があまりしないそのジュースを、チビリと少しだけ口に含む。
「あのな……実は父様の遺書に、我が大学でたら会社を継ぐ様に書かれてたある。」
 中国のその言葉に、日本はチラリとそちらに目線をやるが、直ぐに俯き、頷く。
「そしたら、ココは残してでも我は出て行かなきゃならねぇけど、お前はお前のしたいように出来るようするつもりある。」
 驚く事もせずに日本はコクリと頷くと、下を向いたままキュッと唇を結び、コップに付いた露が滑っていくのをジッと見つめる。肩を落として瞼を伏せ、出来るだけ兄の顔を見ない様にした。
「……だから、我が会社を継ぐことになったらお前とは……」
 超、が付くほどの立派な会社を継ぐのにゴシップは厳禁だろうし、それが本当の兄妹同士なんて知れたら、世間はこぞって面白がるだろう。そうなれば、自分は勿論、日本の立場だって危うくなる。
 中国がそこで言葉を切ると、俯いていた日本はパッと顔を向けると、ふんわりと微笑み「大丈夫です!」といやに明るい声を上げる。中国も顔を上げると、黒い真剣な瞳で日本の顔を見やると、彼女はにっこりと微笑んだ。
「あの……変なこと言って、ごめんなさい。私もう部屋に戻ります。」
 日本はガタリと椅子を鳴らし立ち上がると、中国から顔を反らし逃げ去る様に自身の部屋がある二階への階段へと駆け上がっていく足音を聞いた。中国は後を追いかけようと一瞬立ち上がり掛け、また座り直す。
 自分だってどうしたいのか分からないし、彼女の為になることを一番に考えるべきだとすれば、決して追ってはいけない。彼女の部屋の扉が閉まる音が響いたのと同時に、フェリシアーノが帰宅したらしき明るい声が響く。
 
 次の日の朝に会った時、日本はいつもどおり台所の中を行ったり来たりして朝ご飯の準備をしていた。そして彼女の名前を呼ぶと、にっこり笑って振り返り、「もう少しです、待ってて下さい」とまた朝ご飯の準備を始める。
 まだ高校三年であるし、大学卒業まで後四年と少しココでみんなと過ごさなければならないのだから、ぎこちなくなるのだけは避けたかった。だから良かったと言えば良かったのだが、自分勝手ながら少々悲しい気もする。
 そのまま一日普通に学園生活が終わり、窓からぼんやりと彼女のクラスの授業を眺めていたが、そこに居る彼女はやはり普通であった……一見すれば。けれども自分には分かる、少しばかり元気がない。
 菊が少しばかり元気が無いときは、決まって本当はとてつもなく、元気がない。
 
 その日の晩、夕食後の皿洗いをしている彼女が不意に振り返ると、丁寧に自身の手の平の水を拭い取る。ふんわりと微笑んで王耀の前の席に座り、小さく首を傾げた。
 そして一瞬戸惑ってから、いつもと同じ笑顔でその話を、切り出す。
「……兄さん、私、高校を卒業したら、ここを出て行きますね。」
 先程まで今晩の食事の話でもするかの様だったのに、台所の扉の所に立ってコチラを見上げていた彼女は、泣き出しそうな程にその黒い瞳を揺らしていた。期待とか、不安とか、そういう物を綯い交ぜにした表情で、子供の頃からまるで変わらないその表情で、自分を見上げている。
「……出て行くって、ここを出てどこにいくあるか?」
 極力動揺を顔に出さないように、落ち着いた調子でそう返すと、彼女は首を小さく傾げ(それはまた幼いときからまるで変わらない仕草)、そして諦めるように笑う。
 白く燃える台所の電気が低く唸り、この家には似つかないあまりにも静かな夜で、中国は洗い物をそのままに水道をキュッと締めた。
「分かりません。でも……遠くの大学に入ろうと思います。」
 下に向けられてしまった日本の目を見つめ、中国は掛けたエプロンでその細長い指に絡みついた水滴を拭いながら歩み寄り、小さく腰を屈ませて彼女の顔を覗き込む。
 日本は、決して目線を合わせようとはしない。
「本気で言ってるか?」
 同じ大学に通い、行く行くは目が届く範囲で暮らすのだろうと、なぜか勝手にそう信じ込んでいた中国は、微かに目を細めて密かに早くなる心臓を呪った。
 けれどもそんな中国と対照的に、日本は顔を持ち上げて中国の顔を見やると、にっこりと瞬時に笑みを取り繕う。
「でも、そうしたらもう私と会わなくて済みますよ。」
 と微笑む彼女の事を、ギリッと奥歯を噛みしめて中国は眼光を鋭くさせる。そして苦々しそうな表情で、屈んでいた姿勢を元に戻す。
「……お前、何を勘違いしてるあるか。」
 そう言った自分の声色が、自分でも吃驚する程に冷たく響き、人知れず思わずギョッとしてしまった。日本は、揺れる泣き出しそうな視線をこちらに投げてくるが、そんな事でこの苛つきは拭えそうも無い。
「我は、別にお前に離れて欲しいとかそういう訳じゃ……」
「私が嫌なんです!」
 それまで泣き出しそうな表情をしていた筈の彼女が、怒鳴る様に声を荒げ、そして自身を下から睨め付けてくる。その爆発に思わず言葉を失い、中国は目を大きくして彼女の顔を見つめた。
 怒った表情から、再び泣き出しそうに表情を崩した日本は、俯いてしまい、その動作に従い短い黒髪が揺れ動く。
「あなたはいつか結婚なさるだろし……私に、そんな時も一緒に居ろって、言うんですか?」
 泣き出しそうな顔で彼女は声を荒げてそう言うと、言った直後に自分のセリフに後悔をして深く項垂れてしまった。中国はそんな日本に目線を落とし、言葉を失う。
「だから私、出て行きます。」
 妙にきっぱりと、切り捨てるように言われてしまうと、王耀はこのまま続けるべき言葉を見失い、怒りと困惑を綯い交ぜにした様子で下唇をキツク噛んだ。
 兄から何らかの返事を待ったけれど、彼が何も言わないので菊はそのままフイッと顔を反らしてしまう。そのまま菊は足を踏み出そうとするのだが、耀が慌てて腕を掴んだ。
「……離して下さい。」
 先程とはまるで違う、怒りなどとっくに萎えてしまった震えた声色が聞こえてくる。
「菊。」と一度その名前を呼ぶけれど、彼女は振り向こうとはしない。ただその肩が震えていて、下に伸びた影が蛍光灯の光によって伸ばされていた。
「あなたはいつもそうです。……私の意見なんて、いつも聞いてくれない。ずっとずっと、幼い頃から。」
 不意に部屋の隅で小さくなり、家族にさえ気配を感づかれない様にしている彼女の事を思い出した。息が詰まりそうな部屋の中、彼女はまるで居ない存在の様に扱われていた。
 誰も彼女の意見など聞かず、いつも部屋に一人っきりで本を読んでいたのを、今でも思い出す。友人と言えるのだって一人しか居らず、自分の気持ちを言える話し相手なんて、居なかっただろう。
「我はそんなつもりは無いある。……ただ、もっと話合いを。」
「何を話し合うっていうんですか?」
 決して振り向こうとしない菊の手を離し、今は逃がしてしまおうかと一瞬頭を過ぎるのだが、そうしたら最後、今度は永遠に手元には戻ってきてはくれなくなりそうで、酷く恐ろしかった。
 もう2人っきりになって数年経つけれど、相変わらず自分の世界には彼女と、弟の事しか存在しない。その世界から誰かが欠けること程、自身が恐れている事は無かった。
「……私は、あなたの邪魔になるのが、何より恐ろしいんです。」
 声を震わせた菊が、小さな掠れた声でそう言うと、バッと耀を振り返る。その歪められた顔の両目からはボタボタと涙がこぼれ落ちて、絶えず顎先が落ちていく。
「私は……あなたに置いていかれるのが、恐いんです。」
 握り込まれた拳が微かに震え、再び幼い頃の彼女とその様子が被り、王耀は思わず寂しげに目を細める。
 耀が手を離しても、自由になったからと言って彼女はそこから逃げ出したりはせず、俯いて慌てた様子で己の頬を拭う。幼い頃はその恐ろしさで、泣くことさえ我慢し続けた彼女だ。
「……誰も、置いていったりなんてしないある。」
 菊の線が細く小さな肩に手を回し抱え込むと、落ち着かせるようにその背中をさすってやる。肩を揺らし泣き声を抑えようとする彼女の体を抱きしめたまま、その髪を指櫛で梳く。
 どれ程そうしていたのか、シャクリを繰り返してきたその呼吸音がじきにゆったりと落ち着いてきて、菊の体が王耀から離れる。泣きやんだ彼女の顔はやけに神妙で、最後の涙を拭うその仕草も嫌に大人っぽい。
「ごめんなさい。もう大丈夫です。」
 そして顔を持ち上げ、今まで泣いていたのを一生懸命払拭させるように、ふんわりと微笑んだ。……そんな笑顔など、見たくは無いのに。
「資金的な面はちゃんと保証するし、我は、ただ菊に幸せになって欲しいだけある……」
 だからこそこうして今、自身の思いなど仕舞い込んでしまっているのに。
 どれ程菊のことを思っているのか、考えているのか、これから先も彼女は気が付くこともないのだろう。誰かと結婚して、子供をつくって……そう考えると非常に苛々してしまうけれど、それが幸せだというのならば、受け入れたって良い。
「分かっています。分かっています。」
 そんな王耀の考えとは裏腹に、菊は耀の胸中から身を捩って逃れると、ふらふらと覚束ない足取りで歩き始める。思わず王耀が止めれば、振り返った菊はまた微笑む。
「ごめんなさい、とても疲れたのでもう休みますね。」
 泣き疲れて痛む頭を手の平で抑え、自室へと戻っていく。その様子を見やれば、止めたいまでも止められずにそのまま王耀は彼女が自室に戻るのを見送った。
 
 菊は部屋に入り後ろ手に扉を閉めると、すぐに電気を点けた。低い唸り声を上げながら、億劫そうに電気は点くけれど、その白い灯りがいっそ、この部屋を寒々しく菊の孤独感を尚増長させる。
「私……私、一人になってしまう。一人っきりになってしまう。」
 ずっとわだかまっていた思いを口にした途端、カタカタと自身の指先が震え始め、血の気が引いて酷く寒くなり、体の芯が凍て付いてしまったのが分かった。幼い頃からそればかりが恐くて、恐くてたまらなかったのだ。
 一人になってしまうぐらいなら、誰の気を引かなくても良い、自分など主張しなくても良かった。小さくなって、誰にも迷惑さえかけなくて、ただただ存在しているだけで良かったのだ……。
 瞬時、あんなこと言わなければ良かったと、兄に自分の思いを告白してしまった事に後悔の念を覚え、人工的で真っ白に光る裸電球の下、菊は顔を覆った。
 両親が死んでしまったその時感じた絶望感が、胸の中に溢れてこぼれ落ちてしまいそうになる。ああ、こんなにも恐ろしい思いをするくらいなら、いっそ始めから、自分など無かったことにして欲しいぐらいだ。
 菊は顔を覆って泣き出しそうになってしまいそうな自身を懸命に宥め、己の体を抱き震えてしまいそうになるのを、懸命に抑え込む。
 それから押し入れを開けると、中から一つ大きな鞄を引っ張り出し、自身の洋服を適当に詰め込み始める。一体何が必要だとか、どうしてこんな事をしているのか、もう良く分からない。
 一人になるのも、置いていかれるのも、邪魔扱いされるのも、恐くて恐くて溜まらなかった。だから……衝動的といえど、今すぐにでも逃げ出してしまいたくなってしまう。
 詰め込んで大きく膨れてしまった鞄を右脇に抱え込んで、部屋を音を出さない様に抜け出して夜の道路に駆け出した。外には大きな満月が浮かんでいて、嫌に静かでまるで誰も住んでいないかの様だ。
 これからどこに行けばいいのか分からないけれど、ここよりはどこだってマシな気がする。兎に角恐くて恐くて仕方がなかった。
 日本はとりあえず捨てられるよりも早く、ここから去ってしまいたかったのだ。走り出すと足音が道路中に反響して、どんどん伸びていくアスファルトの影が寒々しくて恐ろしい。
 一人になってしまう……一人になってしまう前に、一人になってしまった方がまだマシだ。