学パロ

メモ用に書いた筈なのにノリノリになった学園パロ(日本総受け)
 
 
 
 

 勢いで飛び出してしまったけれど、どこに行けばいいのかも、これからどうすれば良いのかも分からずに、日本は夜の車道を大きな荷物を抱え走っていた。
 冷たいアスファルトの上、日本の足下から伸びた影は三つ、街灯を通り過ぎる度に彼女の周りを地面伝いにクルクル回る。本田荘では少々夕食が早い為か、他の家々からはまだ暖かな夕飯の薫りと、談笑が時折聞こえてきて、日本の孤独感を尚一層強めた。
 ボロボロになった本田荘を初めて目にしたとき、その外観がどうあれ、日本はやっと自分の桃源郷を見つけたのだと内心喜んだ。暖かい食卓、隣り合わせの部屋、笑いあう人が初めて出来ると、嬉しくて嬉しくて溜まらなかった。
 だって初めは、こんなに好きになるなんて知らなかったのだ……こんなに好きで、好きで、好きで仕方が無くなって、一番近くにいるのに、孤独になるなんて、分からなかったのだ。
 夜の真っ暗な空気を突き破って走りながら、一瞬視界が歪んだ瞬間に、頬を涙がこぼれ落ちていった。一度流れてしまうと、堰を切ったようにポロポロと、いくつもの粒が己の頬を滑り落ちていくのが分かる。けれどももう、逃げるのに精一杯で、拭う暇さえ無い。

 
 
学パロ
 
 
 閉店までは後一時間……日本は時間を確認すると、思い出の深いデパートを、光りのない目で見上げた。何だかデパートは、昔来たよりも汚く、そして小さくさえ感じる。
 幼い頃に兄と2人で見上げたこの建物は、もっとキラキラとしていて、そして夢の王国の様でさえあったのに。その屋上でさえ、ハッキリと記憶していたメリーゴーランドは、馬が5頭しか居らず、錆と汚れで見る影もない。
 屋上に入れるのは閉店の三十分前だけで、既に人っ子一人居なくなった、嫌に寂しい屋上のベンチに腰を下ろして日本は目を瞑った。吐き出した溜息が酷く重く、頭の奥が痛い。
 デパートの中には殆ど客の姿も無く、これが本当に、あの幼い頃来て感動した場所なのか、良く分からない。
 
 結局デパートは後にして、もう人通りも少なくなりつつある駅前のベンチに座り、荷物を自身の右隣に置く。誰かに連絡を入れようと思ったのだが、きっと兄ならば、そんな事すれば直ぐに見つけてしまうだろう。
 ああ、今頃自分を探しているだろうか……と、微かな不安と希望が入り交じって胸中に駆けるが、きっと中国さんは呆れてしまっただろう。彼の言い分はちゃんと通っているし、間違っているのはどう考えても自分の方だ。
 潤む目を懸命に拭い、再び日本が顔を持ち上げた先に、知らない男が一人立っていて、思わず目を丸くして見やった。と、彼はにっこりと笑うと、日本の荷物を指さす。
「それって、もしかして家出?もし泊まる所が無いんなら、ホテル代オレが払ってあげようか?」
 そう言いつつ横に座ってくる物だから、日本は逃げるように慌てて立ち上がる。取り敢えず逃げてしまおうと、荷物に手を伸ばすけれど、その荷物を取られてしまい、眉尻を下げて彼を見やった。
 赤ら顔に、酒の匂いを鼻先に感じて、日本は彼が酔っぱらっているのだと気が付くけれど、それ以上どうしていいのか分からなくて、小さく抗議の言葉を上げただけだ。
 困ると真っ先に兄の顔が浮かんでくるのが情けなくて、キュッと下唇を噛みしめた。日本が大人しいとみてか、図々しくも日本の肩に腕を絡ませてくる。瞬時、背筋が凍る思いを覚え、日本は考えるよりも早くに、男の体を強くグイと押しやった。
 彼にとっては思っても居なかった反抗だったらしく、男は驚き数歩よろめく。その隙を見て、日本は荷物を抱え込むと、駅に背を向けて駆け出した。
 心臓が激しく脈打ち、追いかけて来やしないかと、不安と緊張で目頭がカッと熱くなる。まだ走って間もないのに、全力で走っているせいか、息が上がり、呼吸をすることさえ億劫になる。
 人混みから離れるのは恐ろしかったけれど、また誰かに掴まらないか、補導されやしないかと思うと、人が居る方向から独りでに足が離れていってしまう。人の居ない所は街灯さえ間隔が開き、辺りは真っ暗に染まり上げられてしまっていた。
 途中、恐ろしいほどに大きな、昔自分が住んでいた屋敷の通りに出ていた事に気が付き、日本は思わず足を止める。それからゆったりと歩き出すと、通りの端から高い自身の昔の家の塀を見上げた。
 今は使われていない自身の部屋の窓が遠目に見え、そこには光りなど一つも宿っては居ない。ぼんやりと立ち竦んでそこを見上げると、周りと自分の距離が、果てしなく遠いものになったように感じる。
 ……結局自分には、どこにも居場所が無かった。居ても居なくても変わりない存在で、それは苦痛ではないと、そう思い込んでいた……
 荷物を抱え直すと、日本はそのまま肩を落としゆったりと歩き始める。街灯から照らされ出来た自身の影が、歩く度にゆったりと自身の周りを巡った。
 
 
 結局辿り着いた場所は、幼い頃よく逃げ込んでいた小さな公園だった。あんなにも高かった滑り台が、今ではあまりにも小さなものの様に感じ、街灯の下の小さなベンチに座り込むと、ぼんやりとその滑り台を見上げる。
 この場所は、時折兄が連れ出してくれた場所で、唯一子供らしい遊びをすることが出来た公園であった。そんな瞬間ばかりが詰め込まれた場所だったけれど、今こうして一人で居ると、その光景さえ遠くに見える。
 日本は深い溜息を一つ吐き出すと、胸に抱えていた荷物に顔を埋めてしまう。そのまま、跡形もなく消えてしまえればいいのにと強く思うけれど、何一つとして叶うことはない。
 これからどうすればいいのか分からないし、自分がどうしたいのかさえ、分からない。ただ、どうしたくもなく、そのまま鞄に顔を突っ込み、意識をふんわりと空へと投げる。
 グングン目頭が熱くなり、目の前が歪んで微かに泣き出しそうになるのが分かる。肩が震え、夜の外気に晒されて鳥肌が立ち、思わず足同士を擦らせた。
「……日本。」
 不意に名前を呼ばれて、日本は鞄から弾かれたように顔を持ち上げ、真っ正面に立っている自身の兄と向かい合う。思わず目を大きくさせると、強張った日本の胸の内から鞄が落ちる音がする。
 中国の頬は、走ってきたせいか上気していて、日本はどうしていいのか分からずに微かにまごつくと、そのままゆったりとした動作で立ち上がった。と、中国は数歩で日本に近寄ると、パシンと小気味良い音をたて、その右頬を打つ。
 瞬時、痛みは殆ど無かった物の、衝撃に驚いて日本はそのまま体を強張らせ、打たれた右頬に手を当てたまま立ち竦んでしまう。別段そうしようなど思ってもいなかったのに、目の前が揺らぎ、熱くなった目頭から頬を涙が駆け落ちていく。
 歪む景色と落ちていく涙ばかりをぼんやりと眺め、包んだ頬から覚える温もりをジッと感じた。暖かくて、ジンジンとする。
 ふと近付いてくる気配とほぼ同時に、体がすっぽりと包み込まれる。暖かく、目を瞑ると際限無く涙が零れ、懸命に鼻をすすり、声が漏れそうになるのを耐え抜く。
「悪かったある。」
 抱き込む形で、彼のその腕に微かな力がこもる。耳元で呟かれた言葉に、日本は肩を大きく竦ませると強く首を横に振った。顎先にくっついていた涙の粒が地面に向かい、その動きで落ちていく。
 その濡れた頬を中国は包み込むと、その涙を拭いながら日本のふんわりとした唇に甘噛みをする。瞬時、驚き日本の体が強張り固まるのだが、中国はそんなことお構いなしに、一度顔を離してから、今度はペロリと唇に舌を這わす。
「ちゅ、中国さん?」
 彼女の腕が伸び、驚き中国の胸を微かに押しやろうとするのだが、ガッチリと頬を抑えられて顔さえ反らすことは出来ない。中国の真っ黒で切れ長な瞳が日本の顔を捉え、離さないから、日本は動揺でその瞳を震わせる。
「お前が居なくなるなら、会社なんか継ぐ意味がねぇある。」
 ゆったりとした口調で中国がそう言うのを、日本はそのもとより大きな瞳を更に真ん丸にし、心配そうな表情で中国を見つめた。風は冷たいけれど、なぜか寒さを感じない。
 街灯で照らされた2人分あるはずの影が一つになっていて、その影にチラリと視線をやると、日本はどうしていいのか分からずにたじろぐ。
「お前がどっかにいっちまうぐらいなら、会社は任勇洙に継がせるある。」
 眉間に皺を寄せ、眉をキュッと持ち上げながら力強くそう言うと、日本は驚きフルフルと強く首を精一杯大きく振る。
「いえ……いえ、だめです。そんなの。」
 一瞬自分を脅しているのかとさえ思ったのだが、彼はどちらかというと跡を任勇洙に任せるつもりらしい。泣き出しそうな顔で懸命に日本は首を振るけれど、中国は先の言葉を撤回しようとはしなかった。
「ごめんなさい、もうこんなこと、絶対にしませんから……。」
「いや、もう決めたある。」
 懇願じみた声色を上げて日本がそう縋り付くと、中国は小さく首を振って日本の言葉に即答する。
 ああどうしよう、どうしてこんな事になってしまったのだろうと、日本は慌ててどうしていいのか懸命に考える。考えるけれど、自分と同じぐらいに頑固な兄の事だから、考えを曲げるつもりはないらしい。
「お前が我に言った、初めての我が儘だ。」
 腕を伸ばして日本の体を抱くと、幼い頃にそうしていた様に、腕に力が入る。今まで中国は日本の我が儘らしい我が儘を、一つも聞いたことが無かった。
 今でも時折、部屋の隅に出来るだけ自分という存在を押し殺して立っている彼女の事を思い出す。昔は何も思わなかったのに、今その姿を思い出すと、どうしてその時何もしなかったのだろうかと、悔しささえ滲む。
 昔は彼女の存在なんてどうでも良かったのに、今は、今夜なんて居なくなったと分かった時、胸中が騒いでしまってしかたが無くなり、家を飛び出してしまった。彼女が自分の生活から居なくなると思っただけで、それだけで意味などなくなってしまう。
 胸の中に収められていた日本は、中国をジッと見上げると、その目の中に涙を盛り上げさせて狼狽えている。
「……ずっと我の傍に居てくれるんだろ?」
 不安そうな黒い双眼を見つめながらそう問うと、日本は戸惑いの所為か、少々の間を空けてからコクンと一度頷く。と、中国は満足そうにその目を細め、笑った。
 血の繋がりは半分だといえど、兄妹は兄妹であり、それは決して世間に通る事で無いのは分かっている。一緒になるならば、外界からの風当たりもつよいだろうし、それなりの覚悟がなければならない。
 それでも彼女が良いと言うのならば、それで彼女が幸せだというのならば、いくらでもその道に堕ちてやろうと、腹を括る。
 彼女の為だなんだと言っても、本当は自分もこうなることを、どこかで望んでいたのかも知れない。誰かにやるぐらいだったら彼女が欲しいと思わなかった訳が、どうしてあるだろうか。
「……ごめんなさい。」
 涙声を含ませて彼女が囁く声を聞き、中国は首を振ると、ソレを言うのは自分の方だと、心の底でそっと思った。
「帰るある。イタリアとドイツもお前の事心配しているある。」
 中国は日本の腕を掴むと、彼女の歩調に合わせて、今の家に向かって歩き出す。日本は中国の横にピッタリと付くと、そろそろと中国の顔を見上げた。
「……そういえば、どうして私の居所が分かったのですか?」
 上目勝ちにそう問う日本に、中国はただ、小さな笑顔を向けるだけで、何も言おうとはしない。
 何かあると、いつもこの場所に来て泣いていた小さな姿を、中国はいつも遠くで見ていた。慰める言葉も見つからず、どうしていいのかさえも分からず、ただジッとその姿を見やっていた。
 声を掛けたのは、今日が初めての事だったけれど……

 
 
「日本ー!良かったぁ、どこ行ってたのー?」
「ヴェー」と泣き声を上げながらイタリアは帰ってきた日本に駆け寄り、ギューッと抱き付く。ドイツも何か言いたそうだったけれど、日本の顔を見やって何やら頷いていた。
 彼等も散々日本の事を探していたらしく、非常に付かれた顔色をしていて、安心したのかそのままアッサリと部屋へと戻ってしまう。
 最近実家と本田荘管理者兄妹の間に何やらあったらしいのは、どうやら2人も分かっているらしく、どうして日本が行方をくらました理由も尋ねないし、日本と中国の時間を作ってくれるらしい。
 日本と中国は各々に風呂を済ますと、二人っきりになった台所で、兄の煎れた茶を前に、日本はホウッと小さく溜息を吐き出す。湯飲みを手の平で包み込むと、少々冷えていた体がほのかに温まる。
 中国は日本の右横の席に座ると、頬を緩めている日本の顔を覗き込み、微かに目を細める。そして腕を伸ばし、日本のその黒髪に指を通し、柔らかな感触を楽しむ。
 暫く髪の毛を指先で弄んでいたのだが、中国は日本の顎先を捉え、身を乗り出して噛み付くように口づける。微かに開いた彼女の歯の隙間から舌を侵入させると、その上顎をなぞり、おずおずと戸惑う舌を合わせ、絡ませる。
 時折漏れる互いの熱い吐息と水の音ばかりが聞こえ、どんどん熱くなる体と反対に、頭の中ではさぞおぞましい光景なのだろうかと、自嘲気味に笑う。が、離さない。
 初めての感触の所為か、日本は微かに開いた黒い瞳が震え、潤み、その指先を中国の指と絡ませ、夢中になり懸命に中国についていこうとする。頬が上気し朱く染まり、体を小刻みに震わせた。
 引き寄せていた日本の腰から、ゆったりと指先を降ろしていき、白く柔らかな太ももをそっと撫でた。驚き中国から顔を離した日本は、思わず身をひこうとするが中国によってまた引き寄せられる。
「我は、もう十分待ったある。」
 否、本当は諦めるつもりだった。直にこの肌に触るつもりなど、実際にありえるなんて思いもよらなかった。
 あまりふくよかとはいえない日本の胸元に手をのばし、柔らかな感触を確かめると、服の裾から手を忍ばせ、ブラジャーを上へとずらして手の平で乳房を包み込む。
 微かに身を捩る彼女の首筋に唇を寄せ、舌を這わせると、少しばかり塩っ気を舌先に感じる。鎖骨を甘噛みし、日本のシャツを下からグルリと上に捲り、素肌を外気に晒す。
 日本は怯えをその目に表すけれど、中国の腕の中から無理矢理逃げだそうともしない。白い素肌が露わとなり、思わずしげしげとその肢体を見つめた。
 椅子に座り中国は日本に向かって手招きすると、膝に座る様に促す。日本は一瞬戸惑うけれど、そのまま身を乗り出して中国の膝の上に、またがるように座る。
 中国はその細い腰に腕をまわすと、ブラジャーを完全に取り払い、日本のなだらかな膨らみを口に含み舌を這わせる。日本は背を揺らし、中国の頭に腕をまわして、そのままギュッと抱き付く。
 熱い息が耳元で聞こえ、その細い体が微かに震える。もうみんなとっくに就寝したらしく、家の中には自分達2人が出す音以外、何も聞こえて来はしない。
 一度彼女から離れると、今度は自身が纏っている服に手を掛け、床の上へと脱ぎ捨てる。戸惑う日本の腕が少々彷徨い、その指先を出っ張った中国の鎖骨をなぞり、眉尻を下げた。
「……いいか?」
 朱く染まった彼女の頬に指を添えると、放心しかけている日本は、トロンとした目で、無言のまま頷いた。このまま通してしまえば、これからは今までと違う関係へとなっていく。
 それでも良いのか、という意味合いを含めてそう言ったのだが、日本は即答する。
 日本の足の付け根に向かい手を伸ばすと、一枚布を隔てて彼女の秘部を擦った。ビクリと体が震え、大きな目を、強く瞑ると中国の肩をキュッと掴む。
 その日本を宥める様に、柔らかですべるその背を撫でながら、彼女の下半身に纏っている布を横に少しだけずらし、既に潤い始めたのを確認し、中を傷つけないように指を侵入させる。彼女が息を呑み込む音を聞き、退く腰を強く掴んだ。
 体を強張らせて中国にしがみつくその様子に苦笑を浮かべながら、探り、十分に湿った自身の指先で彼女の丸い出っ張りをさすった。瞬時、彼女はヒュッと息を吸い込むと、切なそうに眉を歪め、腰を浮かして微かに揺らす。
 指を差し込みながらいじると、白い太ももを粘りけの強い液体が伝い、中国の足下まで垂れてくる。目を強く瞑り、強く下唇を噛んでいる彼女の鼻先を、歯を立てて軽く、ごく軽く噛んだ。
 驚いて開かれたその黒い瞳が、微かな怯えを含んだままに中国を見やる。中国は安心させるつもりで笑うのだが、どうしても苦笑気味になってしまい、日本は申し訳なさそうにその瞼を伏せた。
 腕を伸ばし落ち着かせる様に彼女の頬を撫でると、俯いたまま上目勝ちにコチラを見やる。愛らしいその仕草は、昔からずっと変わらない。
「しがみついてるよろし。」
 中国から身を寄せれば、彼女は微かに震える腕を彼の背中に回し、キュッと体を密着させた。申し訳程度の乳房が、直に肌に感じられる。
 彼女の細い腰を掴み、そのまま机の上へと押し倒し、露わとなっていた鎖骨に唇を落とし、赤い跡を一つ付けた。明らかに怯えている彼女を宥めるため、そのまま頬、瞼、額へと唇を落とす。
「力を抜いてれば、大丈夫ある。」
 そうにっこり微笑んでやれば、先程よりもまだ力を抜き、それでも彼女は決死の覚悟でもしているかのような表情のまま、頷いた。中国はそのまま彼女の足を掴み、持ち上げ、下着を取り去る。
 足首を掴まれ、持ち上げられ、外気に秘部が晒されているし、見られているしで、日本は頬を真っ赤に染め上げると、また恥ずかしそうに目をきつく瞑り、横に顔を背けた。けれど、そんな彼女の事はそのままで、中国はゆったりと、白い太ももに舌を這わす。
 息が微かに上がり、舌の動きに合わせるように、彼女の息が荒くなり、時折背がしなる。そのまま蜜壺へと舌を侵入させると、彼女は驚き上半身を持ち上げさせ、慌てたように腕を伸ばす。
「そんなトコ、だめです……」
 泣き出しそうな声色とは裏腹に、時折甘い声をその口の端から漏らし、背を先程よりも大きくしならせ、喘ぎ声を抑えながらも、小さく上げる。先程探り当てた小さな出っ張りを探り当てて吸うと、ヒュッと息を吸い込み、彼女の体が痙攣した。
 十分に濡れた事を確認すると、そのままベルトを外してチャックを開ける。イッたばかりの所為か、状況を掴み切れていないトロンとした彼女の瞳は、そのまま空を彷徨っていた。
 耳に唇を近づけ、何度も彼女の名前を呼びながら彼女の中に侵入させると、その時になってやっと彼女は肩を震わせた。中は暖かいが酷く狭く、このまま押し進めていくのも憚りを覚えてしまうほどだ。
 悩ましげだった声色から、苦しそうなそれに変わり、彼女が自身にしがみつく力が増していく。とっかかりに阻まれるけれども、それでも尚その膜を破り狭い中に押し入る。
 涙声が交わった彼女の声は、誰にも聞こえないように口内で、「痛い、痛い」と繰り返す。しがみつく爪は痛いほどに中国の背を引っ掻くけれど、その痛みも敵わぬ程に彼女の方が痛いのだろう。
 ガチガチと肢体が震え、日本の歯の根は合わずに、微かな音を立てた。泣いているのか、微かにスン、と鼻が鳴る音がする。
 あれ程に、この子に危害を加える連中へ噛み付いていったというのに、彼女をこんなにした当の本人である中国は、震える小さな体を抱き、満足そうに口の両端を持ち上げ、笑った。
 この快感を覚えてしまったのならば、もうきっと、帰れない。それは堕落なのか喜びなのか、既に決定権はどちらの手の中にも存在していない。
 
 
 
 初めての行為で腰が完全に抜けてしまった日本を抱え、自身の部屋に敷かれた布団の上に降ろす。これからこの関係を、同居人のみならず、世間の人々全員から隠し通さなければならない。
 いっそ、自分達を知る人が誰も居ない所に行ってしまいたいけれど、逃避の末に何が来るのか、それは恐ろしい物の様に思えてならない。それでもここでずっと暮らしていけるなど、そんなのは気楽な幻想だろう。
 ……そんな中国の思考を余所に、日本は一人ぼんやりと窓の外を眺め、中国に視線をやろうとしない。怒っているのかと一瞬思うけれど、どちらかといえば衝撃で呆けているようだ。
「日本?」
 そう名前を呼べば、ぼんやりとした黒い目を、ゆっくりと中国へ向けた。
 幼いその容貌は、昔と何も変わっていないように一見感じるけれど、大きな瞳からは深い妖美ささえ垣間見える。幼いのか、大人っぽいのか、まるで分からない。
「何見てたか?」
 小さな動揺を表さぬように、至って平静に尋ねると、彼女は未だ呆けた口調で応える。
「いいえ、何も……ただ、中国さんだけでも私を見てくださって、良かったな、って。」
 窓から視線を反らした日本は、そのまま白い布団へと視線を移し、語尾を弱めて呟いた。窓の外では星が雲の合間からキラキラ光り、寒々しい部屋には沈黙が降りる。
 また、彼女のそんな姿には、再び幼い頃の姿が映り、中国は知れず自身の下唇を噛みしめ、掛ける言葉を見失う。ずっとずっと、彼女は知らないだろう昔から、あんなにも自分は彼女の姿を追いかけ続けていた。
 けれども幼かった不器用な自分は、その思いを伝える手段も言葉も知らず、泣いている彼女を慰めることさえ出来なかった。ただ隣りに座り、その肩を抱くだけでよかったのに……
 中国は立ち上がると、戸棚の一つを開け、中に入っていた一枚の紙を取り出し、彼女の前に翳す。
「これ、遺書が入れられていた金庫に、一緒に入っていたある。」
 遺書自体、押し入れの奥に隠される様に入っていて、今の今まで見つからなかった。だからこそ、彼女に伝えるべき事も、見せるべき物も彼女の眼前に示すことが出来なかったのだ。
 耀が差し出した一枚の紙を訝しげに日本は受け取り、その目を細めて暫くその紙を見つめた後、大きな瞳をより大きくし、中国を見つめ返した。その瞳の中は潤み、今にも涙が零れそうになる。
「なんでこんなものが……」
 そう言って瞑られたその両の瞳から、キラキラと室内灯の明かりを反射させながら、彼女の涙が頬を滑り落ちた。その手に握られた写真に少しだけ皺が寄るけれど、そんなこと今の彼女には取るに足りないことなのだろう。
 彼女の為に残っていたものは、一枚の、幼い頃の日本が映った写真だった。それは昔耀が撮った物で、どうやって両親の手に渡ったのかさえ忘れてしまったけれど、確か日本と2人で初めて出掛けたデパートの屋上であった。
 そこに映った彼女はその声が聞こえてきそうな程楽しそうに笑い、こちらに手を振っている。思えば、あの両親は自分達の笑顔を見たことがあるのだろうか……?
 日本の母親と自分とは、一切血の関係は無かったし、あまり口を聞いたことさえなかった。自分は彼女と父親を憎んでいたし、愛されないのが当然だと、そう信じていた。
 自分達が思っている以上に、世界は自分達に愛を注いでいるのかもしれない。
「愛してるある、日本。」
 眉尻を下げそれだけ言うと、泣いている彼女の横に、ただ無言で座り震える肩を抱く。あまりにも静かな夜は、不思議と未来までもを指し示しているかの様で、酷く心地が良かった。