現代パラレル 女体化 オレンジデイズ(笑)
正月休みで会社も無く、ぼんやりと兄妹二人でテレビを見やっていたその時だった。不意に中国が「あっ」と小さく呟き、眉間に皺を寄せて呟く。瞬時、テレビの内容に反応したのかと思って日本はチラリと中国に目線をやってからまたテレビに目を向けたのだが、どうにも何に反応したのか分からない。
その時、中国が日本を振り返る。顔を顰めているその様子に、日本も言葉を発せずただ兄を見やった。
「前に一緒に水族館に行った奴とまだ付き合いとかあんのか?」
不意に振られた話題に、思わずドキリとしながら、日本は思わず中国から視線を外し、「はぁ、まぁ……」と喉元で唸る。付き合ってます、なんて、何か恥ずかしくて言えないでいたのだ。
「今急に思い出したけど、あいつ我と同じ学校だったある。」
神妙な面持ちで、どこか内緒話をする様な兄に思わず日本も体を乗り出す。
「あいつな、実は元ヤンだったある。それから実は……」
実は元ヤン、という言葉自体の意味が分からないではいたのだが、それでも何かあまりよからぬ物だという事を察知しつつ日本はジッと聞く。
魚の泪
「……実は?」
先を促され、日本は思わず赤くなりながら、少し苦しそうに先を続けた。
「胸の大きな女性ばかりとお付き合いしていたとか……」
そう、日本の口から告げられた言葉にフランスは盛大に噴き出し、学食に居た生徒数人が驚いて振り向くものだから、日本は慌てて周りを見やる。そして更に顔を赤くして出来るだけ身を縮めた。
「それで、イギリスさんとは長い付き合いだと仰っていたので……」
困って俯いてしまっていた日本に、やっと大笑いを収めたフランスはにやつく口元をにやついたまま、うんうんと頷く。
「確かにあいつの好みは巨乳だったけどさ、あんまり気にする事じゃないだろ。」
正月明け、たまたま学食で会ったフランスにこんな話をするのもいかがな物かと思っていたのだが、中高時代を知っているといえばこの人しか居なかったのだ。チラリと目線を少しだけ上げて顔を伺うと、缶に口を付けていた彼は、片眉を上げて笑って見せた。
「なんだったらオレが揉んであげようか?揉めば大きくなるっていうし。」
フランスはそう意地悪く笑って両手を前に出してワキワキさせるものだから、思わず日本は少しばかり後退して胸元に手を置いたその時、そのフランスの頭を誰かが思いっきり辞書で殴る。ドゴッ、といい音と共にフランスが机に突っ伏したのを見送って、日本は顔を持ち上げた。
「ギリシャさん。」
懐かしい隣人の姿をみとめて、日本は微かに目を細める。目があったギリシャもつられて微笑み、片手を上げて見せた。
「日本がフランスと居るのなんて、なんか意外……」
ちょっと拗ねるような口調でそう呟き、ギリシャはフランスの隣りに座る。本当は日本の横に座りたかったのだがそこに座ったのは、フランスが起き上がって何かしようという時となりの方が監視しやすいと考えたからだ。いつだってぼんやりしてばかり居ると思われがちだが、自分の興味がある事と好きな物事には考えを巡らす。
「いやいや、オレと菊ちゃんは一緒にご飯食べた仲だぞ。な!」
勢いよく頭を持ち上げたフランスは、実に楽しそうにそう言うものだから、日本もつられて嬉しそうに笑う。そして「はい」と日本が頷くと、ギリシャは少しだけ唇を尖らせて「ふぅん」と呟いた。
「最近オレとはあんまり遊んでくれないのに。」
つまらなさそうに、拗ねた口調でギリシャがそういうので慌てた日本は少しだけ眉尻を下げた。前は隣に住んでいるという事もあってか、買い物になんか一緒に行ったりしたのだが、ギリシャが大学に入ってからは中々会う機会も無くなっていたのだ。
それに、今は二人きりで遊びに行くというのも中々気が引ける。
「……二人はどういう知り合いなんだ?」
「家がお隣さんなんです」
ギリシャの態度を見て興味が湧いたのか、フランスがそう尋ねたのに、日本が困って会話を開こうと一生懸命だったからか、そのフランスの言葉が助け船な気がして直ぐに返事をする。と、その時不意に日本の名前を誰かが呼び、それに反応して日本が顔を持ち上げた。
「イギリスさん。」
名前を呼ばれた事の返事の様に、日本はパッと顔を輝かすと名前を呼んだ主の名を応える。向こうからやって来た人物は、まるで当然な事の様に日本の隣りに座るから、ギリシャは少しだけ眉間に皺を寄せてみせた。
「二限目、無かったのか?」
席に着き、目の前にいる筈のフランスとギリシャに気を回すよりも早くにまず日本に話しかけ、そしてそこでやっと二人に気が付いたのか、イギリスは視線を二人に寄越す。
「今日は二限目休講だったのでお先に学食で待ってました。……そちらはギリシャさんです。」
取り敢えずイギリスの問いに答えてから、日本はイギリスが向けている視線に気が付いたのかギリシャを紹介した。イギリスは初めて彼に会ったときの状況を思い出し、思わず複雑な表情をしながらも「そうか……オレはイギリスだ」と、半ばそっけなくそう自己紹介を済ます。ギリシャはギリシャで軽く肩を竦めてみせるだけ。
「……あー、じゃあオレ達はこれで失礼するかな。」
変な沈黙に、すかさず空気を読んだフランスはギリシャの後ろ首を掴み立たせ、不満顔なギリシャをそのままズルズルと引っ張りその場を後にする。
無言で、凄く不服そうにフランスを睨んでいるギリシャを前に、フランスはフランスで重い溜息を吐き出した。先程から見ている様子で、ギリシャが日本を好いている事は分かったが、勿論斡旋してやる事は叶わない。
「……フランスと二人っきりでご飯、食べたくない。」
むっつりと膨れるギリシャに、思わず口の端がピクリと震えるのを抑えて無理にフランスが笑った。
「オレだって野郎と二人っきりで飯なんて食いたくないね。だが、今日はお前が可哀想だから付き合ってやるっていってんだ。」
そう笑うフランスに、ギリシャは頬を膨らませて納得しきれない様子で、先程買ったカレーにスプーンを付けた。そして誰にも聞き取られない様な小さな声色で「何も知らない癖に……」と呟いた。
正月休みを終えて、春休みに入る前のほんの僅かなこの期間で、久しぶりに彼女に会った。と、いうのに、お互いシャイに益々磨きがかかったのか、無言のまま黙々と弁当を啄むばかり。話したい事などそれこそ沢山あるのに、喋りかけるタイミングを失った彼等はお互いのタイミングを思い出すまでもう暫く時間がかかりそうである。
「フランス達と何の話をしてたんだ?」
まず初めに口を開いたのはイギリスで、日本は顔を持ち上げて軽く首を傾げた。まさか、イギリスの女性の好みの話をしていたなんて言えず、イギリスから目線を外し明後日の方向を見やりながら
「えぇと……世間話です。」
と、にっこりと自身白々しいと思える笑顔を浮かべ、彼女なりに上手くかわそうと努力する。イギリスは何か言いたげな視線を寄越すが、軽く肩を竦めてみせただけでそれ以上追求しようとはしない。が、そうと言っても気になりはしながらまた黙々と食事に徹した。
流れる沈黙に居たたまれなさを覚えながら日本は困ったように眉尻を下げる。折角久しぶりにあったのに、否、久しぶりだからこそ会話に困ってしまう。彼女自身言葉を探しあぐねているのか、半ばしょんぼりとした日本を横にイギリスは何を喋ればいいのか懸命に脳内を探る。
けれども、どうしても先程のギリシャの存在が気になるし、その事についてはぐらかそうとする日本に若干ながらも微かな苛々を覚える。別に疑っているわけでは無いのだが、思えば自分よりも彼の方が昔から日本について知っている、という事が気にくわないのかも知れない。
「あ、イギリスさんっ。」
と、不意にかけられた声によって展開は打開されたのか否か、向こう遠くからセーシェルの声がし、笑顔でパタパタと駆けてくる。イギリス側から発見した為か、近づいてから日本を見つけてにっこりと笑ったまま日本の名を呼び手を大きく振った。そしてイギリスの隣の椅子を引き、座ると、イギリスが手にしている日本お手製のいつもよりちょっと豪勢な弁当をジッと見つめる。
「いいなぁいいなぁ、ご飯食べれるなんて……」
バイトの給料日直前、セーシェルはいつだって腹を空かし、必ず学食に来ては知り合いを捜している。そして探し当てた暁にはいつも同じセリフを言い、食い物をねだるというせこい技を身につけていた。
「お前はいつもそうだな。……オレの分も残して置けよ。」
こうなったら意地でも食い下がらないと知っているし、と、イギリスは深い溜息を吐き出して弁当をセーシェルに手渡してやる。セーシェルはあらん限り顔を輝かせると、うやうやしく弁当を受け取りイギリスに調子の良い御礼を述べた。
「うぁぁ、おいしいです。イギリスさんの手作りじゃあこんなにおいしくないですもんね。これ、もしかしなくても日本さんのお手製なんですか?」
背景にホワホワと花を浮かべて、心底嬉しそうにとろけ出しそうな笑顔でセーシェルは自身の頬に片手を当てて口内の食べ物を噛みしめる。
「おまっ!!人が折角夕飯たまに作ってやってんのに、なんだその言い様は。」
いつもの不機嫌そうな眉間の皺を更に深くしてセーシェルを睨むと、慌ててセーシェルが誤魔化す様に笑う。
日本は突然名前を呼ばれて驚いたのか、考え事でもするように俯き加減に箸を囓って自身のお弁当を見やっていたのだが、瞳を大きくさせて慌てて顔を持ち上げた。それから取り繕った笑顔を浮かべて「はいっ」と一度頷く。
「お二人は仲が良いのですね。」
いつもと変わらない笑顔のままに日本が、少し嬉しそうだともとれる程に軽やかにそう言う。その瞬間、はぐはぐおかずを頬張っていたセーシェルは箸を弁当箱にそっと乗せ、すっとイギリスの前に戻す。
日本のセリフに異論を唱えようとしていたイギリスは、返された弁当箱に驚きセーシェルに視線を戻す。
「……なんだ?もういいのか?」
いつもだったらもっとがっつくのにと、イギリスは不思議に思って訝しげにセーシェルを見やった。
「いえ、お腹いっぱいになりました。」
そう言いつつ椅子から立ち上がると、丁度良いタイミングで彼女の腹の虫が大きな声で鳴く。笑っていたセーシェルの顔が、その音で赤くなるのを見届けてからイギリスは勢いよく噴き出した。
「なんだよ。腹減ってんじゃねぇか。」
ほれ、と差し出される弁当箱に、セーシェルは顔を赤くしたままフルフルと首を振ると、「本当にお腹いっぱいなんです!」と涙目で訴えその場を去ろうとした時。
「あのぅ」
それまで黙って二人のやりとりをみていた日本が不意に声を上げたモノだから、やいややいやと言い争っていた二人が同時に日本に目線を送る。彼女は四つの瞳が自分に向いたことに若干恥ずかしさを覚えたのか、すこしだけ目をすぼめた。
「私、レポートの為に本を借りなければならないので図書館に行って参りますね。」
困った様に眉尻を下げたままそう笑い、まだ幾分中身が残っている弁当箱を綺麗に片付けはじめる。
「そうか……ちょっと待て、今荷物を纏めるから。」
セーシェルと攻防戦を繰り広げていたイギリスは、弁当箱をセーシェルに押しやってから自身の鞄に手を伸ばす。が、それよりも早く日本が声を上げる。
「いえ、ここから図書館までは近いしバリアフリーなので、車椅子で行けば簡単なんです。」
にっこりと笑ってそう言う日本に眉間に皺を寄せてイギリスはしぶるが、日本はフルフルと首を振った。
「イギリスさん、まだお食事が途中じゃないですか。一人でも大丈夫です。後でお弁当箱だけ返してくだされば良いので……。」
ほわほわと微笑む日本に、半ば押されながら、まだ全然腹が膨れていない事も確かであった為渋々と受諾する。何より、なぜか日本が来て欲しくなさそうなのが妙に引っかる。
「それでは後で」にっこりと手を振りながら慣れた手つきで車椅子を運転する日本を、心配気に見送りきってから顔を戻し、思わず隣りにギョッとする。セーシェルがぐったりと机に突っ伏していたから。
「……もう、イギリスさんの馬鹿、鈍感……うぅ、私の馬鹿……」
ぐったりとしたセーシェルから絞り出されるような独り言に、イギリスは不思議そうに顔を顰めた。それから未だ手に持っていた弁当箱を彼女に向ける。
「ぐったりするほど腹が減ってたのか?お前よくそんなんで今まで生きて来れたな。」
ハハッと馬鹿にするように笑うイギリスを、睨んでやりたいが睨むほどの元気も無く、ただセーシェルは悲しげな溜息を一つ吐き出した。
別段本当は本など探してはいなくて、何となく居づらかったから此処に逃げ込んだわけで……日本は視線を持ち上げて、棚に詰め込まれた本の数々を見上げる。いっそ陰鬱だと言われてしまうだろう古い本の匂いに包まれると、どんなに荒れた心地も落ち着くから不思議だ。
「日本」
不意に名前を呼ばれて振り返ると、静寂の中にポツリとギリシャが立っていて日本に向かって手を振っている。
「ギリシャさん。良く会いますね。」
急いで笑顔を作って顔を持ち上げれば、彼はなぜだか少しばかり悲しそうな笑顔を浮かべて歩み寄ってきた。それからその長身を屈めて日本と目線を合わせる。
「何か取りたい本あったら言ってね……」
いつもどおり緩やかな口調でそう笑うギリシャに、日本も笑いかけてふと曇った。その表情を、少しだけ首を傾けギリシャが問う。
「どうしたの……?」
眉を歪めて心配そうにギリシャの顔を見上げず、俯いたまま日本は口を開いた。静かな図書館では、その小さな声でさえ良く通る。
「何でも無いんです。」
フルフルと首を振って俯いてしまった日本の顔が見られるようにか、しゃがみ込んでずっと下から彼女の顔を見上げて、日本の手をそっと握った。
「あのね、オレ、本当はずっと見てたんだ。日本が一人で図書館に入るのも、見てたから追いかけたの……」
そこで一息おいて、決心でもしたかの様な口調でギリシャは先を続ける。
「それだけじゃないよ。この学校にだって、日本が居たから……だって、もっとずっと前から見てたんだもん」
声を張るギリシャに、驚いた様に日本はやっと顔を上げて彼を見やった。お互いの黒い瞳が正面からぶつかり、日本は困った様に視線を外す。
「そんな、だって、ギリシャさんは……」
家の周りなどで時折会ったときは、いつだってと言って良いほどに、ギリシャはいつも違う女の子を連れていたし、自身に対してもそんな素振りを見せたことも無かった。困って眉を歪めた日本を、泣き出しそうな子供じみた表情でギリシャは見上げる。
「日本は、ずっとドイツの事が好きだって思ってたの。そしたら、きっと、日本は幸せになれた……でも、なんであんな奴なの?」
そのギリシャの言葉に反応してか、日本もムッとしてギリシャを見やるが、子供っぽい泣き出しそうな彼の顔を見て言葉を失う。体は全然日本より大きく成長したものの、まだ年下という事も幼い頃から知っているという事もあってか、彼のそんな顔には弱い。
「日本の事、なにも知らないし分かって無い……!」
どこか懇願じみたその言葉に眉を吊り上げた日本が大きくかぶりをふる。
「今日は勝手に私が……」
言葉を探すように日本が視線を下げる。文は完成されていないが、言いたいことはもうギリシャには分かった。
「日本はいつだってそうだ……自分が我慢すれば良いって、本当に思ってるの?」
怒った様に眉を歪めるギリシャを、言葉探しをしながら日本も真っ直ぐに見やる。
「嫌われるよりもましです。それに、ただ、私の心が狭いだけ、です……」
泣き出しそうなその顔を見て、しゃがみ込んでいた体を起こすのと同時に日本の顎を掴むと無理矢理一度口づける。そして、素早く離した。一瞬の事に反応しきれなかった日本は固まったまま真剣な顔をするギリシャと対峙した。
「ねぇ、日本、オレにして……そしたらもう、他の女の子と会ったりなんてしない。日本が望むなら、日本以外の女の子と口だってきかない……」
泣き出しそうなギリシャの表情を見やってから、眉尻を下げた日本は俯く。図書館はやはり静かで、どんな物音だって拾い出す。
燃える様な夕焼けを一枚のガラス越しに眺めながら、日本は小さく溜息を吐き出す。待ち人は約束の時間を疾うに十分程遅れていて、日本は不安そうな表情で俯きかけていた、その時、やっと待ち焦がれた人の声が聞こえ、急いで顔を持ち上げる。
「悪い、待ったか?」
駆けて来たイギリスにフルフルと首を振ると、彼は片方に持っていた缶を日本に手渡した。それは暖かなココアで、受け取った日本はそっとそのココアの缶を頬にあてる。
「外は寒いからな。」
そう言って車椅子を押しかけたイギリスは、自身の首に巻いていたマフラーも外し、くるくるっと日本の首に巻く。
「あのぅ……これじゃあイギリスさんが寒くはありませんか?」
戸惑って後ろを振り返りイギリスを見やると、イギリスはいつもの様に憮然な顔をしてみせるばかり。ただぶっきらぼうに
「元々マフラーは首が絞められてるみたいであまり好きじゃないからな。」
じゃあ何で今までしていたんですか、なんて野暮な質問はせず、日本は思わず笑い出してしまう。と、イギリスも照れた様子で肩を竦め、やっと帰路へとつく為に大学から一歩外へ出た。身を切るような寒さに、二人とも思わず体が縮こまる。
「……あのな、その……もっと色々言いたいこと言っていいんだからな。」
急にイギリスがそう声を上げたから、身を縮めていた日本は驚いて顔を持ち上げた。けれども車椅子を押しているイギリスは、照れか日本と視線を合わせない。
「実は、昼休み心配だったからオレも図書館に行ったんだ。」
そうイギリスが言うモノだから、日本はほぼ条件反射に自身の唇を押さえる、が、車椅子を押しているイギリスはその日本の動作には気が付かない。
「それで……まぁ、出て行くタイミングが無くて会話しか聞こえなかったんだが……」
困った様に笑うイギリスに、少々青くなっていた日本はキスシーンを見られていなかった事に安堵の溜息を聞かれないように零し、そしてはにかんで笑う。
「一応恋人なんだからな。……だから、どんな事でも話して、欲しい。」
あまり元気のないイギリスの言葉を聞いていた日本は、小さく間を開けてから口を開く。
「それでは……イギリスさん、胸の大きい女性が好きなんですか?」
数秒の沈黙。後、思わずイギリスは「え?」と張り付いた様な笑顔で問い返す。が、日本は質問が恥ずかしかったのか顔を赤くしてもう一度同じ質問をしようとはしない。
「いや……うん、まぁ、そうだな。無いよりは……」
混乱したままイギリスは口ごもりそう頬を掻いて言うと、もし日本に猫耳なんて素敵なアイテムが備え付けられていたら、その耳がしょぼーんと垂れ下がってしまう程に彼女が項垂れる。後ろ姿だけでもその様子を読み取り、イギリスは慌てて付け足した。
「待て!胸がでかい女かお前かって言われたら、それは勿論お前だからな!」
その懸命なフォローに、しょんぼりしていた日本も思わず不意をつかれた様に小さく噴き出す。突然笑い出した日本に、イギリスは顔を赤くしてから唇を尖らせ、拗ねたのかそっぽを向いた。
「……なんか用?」
思いっきり顔を顰め、ギリシャは自分の前に立ちはだかるフランスを見やり頬を膨らませる。フランスは浮き浮きとした笑顔でギリシャの肩に腕を回した。
「なんだよなんだよ、飲みにいかねぇの?オレも付き合ってやるっていってんだよ。なんなら可愛い子連れてきてもいいんだぜ?」
うりうりと頬を突かれ、ギリシャは思いっきり眉を顰めた。同じ出身校というだけで、初めからフランスはギリシャに対して馴れ馴れしかった。否、フランスは誰にだって馴れ馴れしかった。
「可愛い子なんて……」
唇を尖らせ、拗ねた口調でそう呟き、無精髭が生えたフランスの顎を押しやる。まだ諦めたわけじゃないんだから、と、口内で小さく小さく、まるでまじないの様に呟いた。