蒼穹
※ この小説は性的描写が入ります。18歳未満の方は読むのをご遠慮下さい。
しかも胡乱での設定とか無視しています。
白梅咲きたる かの庭園
散り散り散りたる 雪のごとし
紅梅咲きたる かの身体
はらはら落ちるは 雨のごとし
白木蓮の色香、くちなしの香気、白百合の楚々
そして
『 蒼 穹 』
彼が言った。確かに言った。
自分は確かに現在阿片の毒牙にかかっているのだけれども、彼の声まで聞き間違えるほど衰弱はしていまい。
柔らかな白い頬と、自分とは違い短く切った真っ黒な黒髪。そしてあの少々虚ろな瞳を僅かに揺らしながら、自分に 可哀想ですね と呟いた。
それはどういう意味であろうか、なんて、恐らく真っ黒な隈を作った自分は彼に問いを返しただろう。
「可哀想だと申し上げました。そのままの意味です。」
椅子に適当にもたれ掛った中国の前で、日本は事もなげに唇を少々歪めていびつな笑みを湛えた。
「我が可哀想なら、お前だって十分可哀想ね」
気怠そうな声音は、あくまで不機嫌。けれども日本は微塵も怯える風でも、ましてや言い返す風でも無く、困った様な笑いを崩しはしない。
「……美國は?」
あの若い國の名前を出すと、彼の眉がやっと不機嫌そうに歪められ、口を付けたばかりの湯飲みを優しく机に置いた。
「家に、いらっしゃいます」
「置いてきたあるか?」
はい と彼の声は異様な程透き通ってハッキリしていて、中国は待ち惚けを喰らっている、あの金髪の青年を想像して思わず吹き出してしまった。
「それで、お前はあいつを置いてきて何しに来たある?」
手を伸ばして、弟の髪を手漉きしながら優しく問いかけると、彼が僅かに俯きその睫の長い瞳を伏せる。
「見ていただきたくて、来ました。」
「何を?」
彼の言葉にすかさず返すと、彼はすっくと立ち上がり、その民族衣装の首もとを緩めると、その白いうなじを外気に晒した。
彼の真っ白なうなじには、いつのまにやらハッキリとした紅梅が2、3咲き乱れていた。
「…我に花見でもしろと?それとも何か?赤飯でも食わせろって…」
「嫌いです!」苛々として出た中国の言葉を遮り、日本が悲鳴を上げて蹲る。まさか彼が急に声を荒げたりするなんて、少しも想像していなかった中国は、思わず切れ長の目を大きく見開き、小さくなった日本を無言で見つめる。
「嫌いなんです。」
彼がもう一度泣き声を発した。細かく震えるその肩が酷く小さくて、中国の手が触れただけで崩れてしまう様な気さえする。
「…それで?」
何が嫌いなのか とは聞かない。震える彼が酷く哀れで、幼い頃だってそうやって破裂した様に感情を露わになんてそんなにしなかったのに。と記憶だけがどんどんと離れていく。
不意に持ち上がった彼の顔が、涙を沢山湛えたその瞳が、赤みを帯びた頬が、幼い頃の彼と瓜二つだというのに、幼い頃には決してなかった妖艶な何かを孕んでいる。
「……私は」
彼が囁いた。その瞬間、ポロリと一粒の滴がかの頬を滑り落ちて床に音立て落ちる。その様子を目で追った後、もう一度彼を見つめ、目を細めながら手を招く。
「おいで」と。
頭は確かにおかしかった。あの白い粉の所為なのか、はたまた弟の所為なのか。けれども、そんな因果は何の問題にだって成りえはしない。
椅子に座ったまま、日本を膝の上に乗せて頬を両手で掴むと幾度となく唇を合わせて、やがて開いた日本の口内に舌を割り込ませ互いの舌を絡ませる。ザラザラとした感触と、唾液が混ざる音に酷く興奮を覚え、恐らく女にだってしない様な早急さと強引さで彼の胸部に手を差し込む。
体温の高い彼の身体に自分の冷たい手が当たった為か、唇を合わせたまま彼がビクリと震えた。けれどもそれを全く気にも止めずに、胸部の突起を人差し指で優しく擦る。
日本は身体を弓なりに、自分と唇を離して小さな嬌声を上げた。可愛らしいその熱を持った唇の端から涎が一筋はしる。
こんなに反応が急なのは、恐らく彼も此処に来る前に媚薬か何かを口にしたのかもしれない。
弓なりに仰け反った彼の胸に、今度は口を近づけて口内に含んだ。彼の手が自分の頭にまわり抱き付く。
「中国さん」と、また彼が囁いた。焼けて枯れてしまった声色。
ガタン、と彼を机の上に押し倒す形で立ち上がると、置いてあった湯飲みが音を立てて倒れ、中に入っていた茶が卓上にぶちまけられた。それすらも気にせずにもう一度かの唇に口づけると、片手で日本の下着をスルスルと脱がせていく。
それから間もなく露わになった局部を、そっと右手で握る。もう随分立ち上がっていた。
「…早く」
彼の恥で満ちた懇願の声を聞き入れ、二三度軽く扱いてから、両足を肩に掛けて彼の性器を口に含んだ。
驚いて伸びてきた日本の細い腕が、微かに震えながら自分の頭をさする。
歯を立てない様に、筋にそって舌を這わせると彼の嬌声がより一段と高く、大きくなり未だ昼の空はただ穏やかであり、そして静かであった。響くのはひたすら彼の甘い叫び声のみ。
やがて彼が身体を一段震わせたのと同時に、口内に苦い液体が溢れかえる。呑もうか吐き出そうか考える間もなく、気が付いたら呑み下していた。ソレは彼から出たものだと分からないほどに苦く、又喉に引っ付いて忌々しい。
とろん、とした瞳がじっとコチラを眺めていた。彼だったら取り乱して謝るものだとばかり思っていたのに。
もうされた事があるのだろうか?不意に沸き起こった感情は殺意に近かった。否、等しかったと述べても良い。
それでも冷静を保ちつつ彼の精液を絡ませた指二本を、ゆっくりと探り入れる様に体内に差し入れる。彼の身体が再び小刻みに震え、その頬にまた赤みが差し込む。
汗でじっとりとした右足の内太ももに舌を這わせると、彼の喘ぎが再び小さく聞こえる。明らかに美國が付けていったへその横の赤い跡にも同様に舌を這わせる。少々塩の味がする。
一つ、あぁ、と彼が声を上げると泣き出した様に瞳を両手で強く隠し、全てから逃れる様に首を小さく振る。
彼が一番初めに言ったセリフが脳内で響く。可哀想に。
まだ十分に慣らしていないにも関わらず、そっと自身を挿入口にあてがった。彼はその早急さに自分を拒絶するものだとばかり思っていたのに、快楽か絶望かよく分からない涙で濡れていた瞳から手を離すと、スルリと自分の首に腕を巻き付ける。
それから熱い吐息を自分の耳に吹きかけながら、挿入してきた痛みで鋭い悲鳴を上げた。
中はきつく、そして熱く、本当にコレがあの若造を何度か受け入れたのか、不思議に思うのと同時に吐き気がした。
緩やかだった動きを急に早め、その細い腰を掴み上げると酷い音を立てながらガシガシと内側の肉に擦りつける。彼は途切れ途切れに「痛い」と呟くのに、自分の背中に回した手を決して離そうとはせず、それどころか鳴く声はどこか獣じみていて思わず自分をうっとりとさせた。
二度、最後に深く突き刺すと、肌がぶつかる音と共に彼が声高に「あっ」と声を上げ遂に自分の背中から腕がすり抜け、自分と同時に果てた。
涙で睫とも頬ともいわず、顔全体をグシャグシャにした日本が、呆然と空を眺めていて、その様子が酷く愛らしい。
汚れていない方の手で、その汗で塗れた黒髪を掻き上げてやってから瞼にそっと唇を落とし顔を離すと、驚いて目を見開いた彼と目が合った。
それはいつも自分が可愛がっていた弟の相違いなく、不意に一つの感情が、燃え上がるといっていい程急に自分自身を支配した。
先程感じた狂気でも殺意でも一切なく、確かにそれは甘くとろける様な愛情であった。子供の頃から彼に抱いていた風や海を愛する様な感情だった。のにも関わらず、自分の手がそっと彼の細い首にそっと手をかけるとギュッと強く締め上げる。
その行為は、早く走る馬の前に身を投げ出してしまいたい様な、小さな衝動の一つであった。彼の驚いて見開いた瞳が、自分の薄ら笑った顔を鏡になって映し出す。
閉め出されていた呼吸器官が、ほんの数秒で開け放たれて、咳き込むことも無く空気が肺に戻ってきた。
「なぜ殺してくれないんですか?」と尋ねたつもりが、ソレが言葉になる事も無かった。自分では言ったつもりなのだが、あれ程声を上げた為なのか、締められた為なのかは良く分からない。
一瞬だけ締められた自分の喉を右手で押さえて天井を見上げていると、不意に右頬に暖かな感触を覚え自分にもたれ掛った人物を見上げる。
中国さんは先程懐かしい仕草で自分の髪を掻き上げてくれたその左手で、今度は自分の目頭を押さえながら声もなくポタポタと暖かな涙を自分に降らせていた。
まるで雨の様だと思いながら、彼の頭を自分の肩口に抱え込むと、彼自身の腕が自分を掻き抱いた。懐かしい彼の香り。体温。ずっと彼が大好きだった。
彼を抱えたまま顔を庭の方へ向けると、午後の光を受けてキラキラと青い葉が光っている。
それから、ずっと昔兄弟で無邪気に遊んだそのままの顔をした空が、どこまでもどこまでも広がっていた。